Netflixが打ち出す中国戦略ーー『ソード・オブ・デスティニー』の狙いを読む
2月26日からNetflixオリジナル映画『ソード・オブ・デスティニー』の配信が全世界でスタートした。同作はアカデミー賞4部門を受賞し200億円以上の興行収入を叩き出した武侠(※)アクション『グリーン・デスティニー』の続編である。※中華圏の武術時代劇の一種 前作が興行・賞レースともに大成功を収めた作品だけに、Netflixでの独占配信が注目を集めるのは当然のこと。
しかし、それ以上に注目すべきは、同作が中国資本(中国電影集団)が入った初のNetflixオリジナル映画という点である。勘のいい方はお気づきだろう、『ソード・オブ・デスティニー』は拡大する中国市場と世界の潜在視聴者を同時に狙った作品なのである。前作のアクション監督で、『マトリックス』以降抜群の知名度を誇るユエン・ウーピンがメガホンをとり、ハリウッドでも活躍するミシェール・ヨーがメインキャストとして再登板、さらには『ローグ・ワン: ア・スター・ウォーズ・ストーリー(原題)』で世界制覇に乗り出した‶宇宙最強″のカンフースター、ドニー・イェンの参戦からも、その狙いは明らかだ。
また、同作はNetflixが劇場公開と配信を同時に行う第二弾作品でもある。第一弾の『ビースト・オブ・ノー・ネーション』が北米劇場チェーンに上映拒否されたことは記憶に新しいが、『ソード・オブ・デスティニー』も同様にIMAXシアター12館での小規模スタート。しかし、こちらは中国で存分に成果を上げているのである。
世界戦略のため生み出された‶ウエスタン武侠アクション″
Netflixのサービス対象である約190の国と地域に含まれていない中国では、同作は劇場のみで2月19日から公開された。同時期公開の『美人魚』が2週間で興収約466億円の異常なヒットを記録したため首位こそ逃したものの、『ソード・オブ・デスティニー』も公開直後の週末累計興収では2位の好成績でスタートしている。その後も日別で3位圏内を維持し、1週間で約35億円の累計興収を記録。製作費が約68億円とのことなので、このまま順調に推移すれば劇場だけで半分程度の予算は回収できるはずだ。
前作の興収200億円と比べればかなり厳しい数字に見えるが、Netflixにとってはそうでもない。なぜなら、同社のオリジナル映画・ドラマ製作の主な目的は劇場での回収ではなく、新規登録者の獲得とコンテンツの確保にあるからである。例えば、Netflixオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は約100億円を投じて製作され、結果300万人の新規会員を獲得。2017年にはシーズン5が放送される好調ぶりだ。Netflixは2016年の制作予算に約6000億円を確保し、コンテンツの制作に重きを置くことも発表している。
また、前作の言語が全編北京語だったのに対し、同作の言語は英語。制作陣も中華圏出身者がほとんどを占めていた前作から、アメリカ、オーストラリア、イギリス、ベトナムなど多様な人種のスタッフへと変更。ロケーションの一部はオーストラリアだ。くわえてウーピン監督は完成披露会見で、世界展開のために西部劇と武侠アクションを融合させたことも明言している。つまり、『ソード・オブ・デスティニー』は当初から中国以外の視聴者を獲得するための‶ウエスタン武侠アクション″を目指していたのである。
『マルコ・ポーロ』と『ソード・オブ・デスティニー』で積み重ねられるデータ
この方法論は、同じ製作総指揮=ワインスタイン兄弟、脚本=ジョン・フスコのNetflixオリジナルドラマ『マルコ・ポーロ』の成功にもとづいたものである可能性が高い。同ドラマは、シルクロードを舞台に、冒険家マルコ・ポーロや盲目の中国僧、そしてフビライ・ハーンとその一族が、全編英語セリフでカンフーアクションを繰り広げる国籍不明のカンフー活劇だ。こちらは90億円の予算で製作され、今夏にはシーズン2が配信される人気ぶり。一方の『ソード・オブ・デスティニー』も、ドニーさん演じる‶サイレントウルフ″をはじめ‶フライングブレード″‶サンダーフィスト″‶亀のマー″などいかにも欧米人が考えたアツい二つ名を持つ武侠たちが大活躍。アクションの濃度は違うものの、非常に似通ったテイストなのである。
『ソード・オブ・デスティニー』のアメリカナイズドされた作風は前作と比べて興行的に伸び悩む原因になっているのかもしれない。しかし、これを中国でのサービス開始に向けた第一歩と考えれば、Netflixにとっては成功といえるのではないか。昨年には、Netflixは中国ネットコンテンツ配信業最大手のWASUと交渉していることが報じられたばかり。2015年5月までで、中国のインターネット利用者数は約6億7,000万人(世界銀行調べ)である。仮にこの1%でも視聴すれば、毎月数百億円の視聴料がNetflixの懐に転がり込むことになる。しかも、この収益は劇場と利益を折半する必要がないのである。同作で得たデータを検閲対策やローカライズに活かせば、視聴者のパーセンテージはさらに上がることだろう。ドニー・イェンをキャストに据えた同作は、まさに‶宇宙最強″への一手なのである。
■藤本 洋輔
京都育ちの映画好きのライター。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。 TRASH-UP!! などで主にアクション映画について書いています。Twitter
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『ソード・オブ・デスティニー』
Netflixにて好評ストリーミング中
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