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かつて日本が辿ってきた道ーーオムニバスアニメ『詩季織々』の懐かしさの正体

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 『詩季織々』は懐かしい映画だ。中国の話なのに懐かしいと感じる。ノスタルジーを描いた作品なのでそういう気持ちにもなるだろうが、どうもそれだけではない気がする。

 このプロジェクトは、中国アニメを代表するブランド、Haolinersを率いるリ・ハオリン監督が、かつて新海誠監督の『秒速5センチメートル』を観て感激し、長年コミックス・ウェーブ・フィルムにオファーを出し続けて実現したものだそうだ。『君の名は。』の空前の大ヒットで、次の一手が注目されていた同スタジオだが、『詩季織々』は自らの強みを確認するかのように原点回帰的な作品となった。さながら上海版『秒速5センチメートル』といった趣のある作品だ。

 アニメファンにとっての懐かしさの正体は『秒速5センチメートル』を思い起こさせるという点があるだろう。本作も本家同様、3つのエピソードから成るオムニバス形式だし、情景描写のありようも同じスタジオ制作なので、いくつも共通点が見いだせる。

 しかし、懐かしさの正体はこれではない。この映画には、かつて日本が辿ってきた道が描かれている気がするのだ。

「衣食住行」で描く中国の生活のリアル

『陽だまりの朝食』

 本作は、3つのエピソードがそれぞれに一つずつテーマを持っている。日本では生活に必要な事柄の総称を「衣食住」という言葉で表すが、中国では「衣食住行」と言うそうだ。3つのエピソードが、それぞれ衣食住を描き、ある仕掛けによって「行」を描いている。この「行」の描き方がとても粋なのだが、ネタバレになるので詳述はやめておこう。

 生活の基本がテーマなだけあって、本作は中国の人々の等身大の生活感に溢れている。過剰に政治的な視線もなければ、経済的成功を勝ち誇る態度もない。むしろ、描かれるのは普遍的な家族の絆や、急速な経済成長で失われた「何か」だ。

 「食」を描く『陽だまりの朝食』は、田舎から北京に出てきた若者が、おふくろの味であるビーフンを思い出す話だ。都会の生活で心の擦り切れた若者の物語は、日本でも繰り返し描かれているお馴染みのものだ。背後には地方と都市の経済格差があるのだろうが、日本に暮らす我々にも容易にそのことが想像できる。

『小さなファッションショー』

 続く、「衣」をテーマにした『小さなファッションショー』は広州の都会に生きる姉妹の絆を描いた作品だ。一見都会の洗練された姉妹の、洗練しきっていない純な部分が美しい。

 総監督のリ・ハオリン自身が手がけた「住」がテーマの『上海恋』は本作のハイライトと言っていいだろう。テーマの深層と物語が絶妙にマッチしていて、急速な経済発展の中で、中国の市井の人々が何を思い、何を失ってきたのかを情感たっぷりに描いている。

 『上海恋』は石庫門と呼ばれる、上海の古い建築様式の家が並ぶ住宅地が舞台だ。19世紀に確立され、和洋折衷の独特の外観が魅力で、かつては上海の6割ほどがこの様式の住宅であったらしい。しかし、90年代からの大規模な再開発によって、今ではわずかしか残っていないそうだ。

 このエピソードにとって街はただの風景ではない。そこには一人ひとりの生活の想い出があり、大切な人と過ごした記憶がある。このエピソードは町並みと人の物語が見事にリンクしている。特に歩道橋の使い方が、文字通り男女をつなぐ「橋渡し」として機能していて上手い。

      

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