アジア映画の日本版リメイクを成功させるには? 『あの頃、君を追いかけた』『SUNNY』から考察

アジア映画の日本版リメイク

 アジア圏の作品を日本でリメイクするケースといえば、先日まで放送されていたドラマ『グッド・ドクター』(フジテレビ系)であったり、『魔王』(TBS系)や『銭の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)のようなドラマ作品に集中しているイメージが強いが、映画作品でも昨年大ヒットを記録した『22年目の告白―私が殺人犯です―』をはじめ、『あやしい彼女』に『MONSTERZ モンスターズ』、少し前であれば キム・ジウンの『クワイエット・ファミリー』を三池崇史がリメイクした『カタクリ家の幸福』、セシリア・チャン主演の香港映画を『星願 あなたにもういちど』を竹内結子主演でリメイクした『星に願いを。 Nights of the Shooting Starr』など、意外と多い。

 ハリウッドやヨーロッパの作品をリメイクする上では(たとえば『サイドウェイ』のリメイク『サイドウェイズ』のように)純然としたプロットの表面をすくい上げることだけでオリジナルとリメイクの差が顕著に現れるが、アジア圏の作品だとなかなかそうはいかない。こういった場合で必要になってくるのは「リメイクする意味」以上に、「何故この物語を日本に置き換えて描くのか」という作品全体に滲み出るポリシーに従った、極めて内面的な「ローカライズ」であろう。

『22年目の告白―私が殺人犯です―』(c)2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会

 たとえば『22年目の告白―私が殺人犯です―』では物語の鍵となる“時効”が日本ではすでに撤廃されており、その転換期となる日付に焦点を当てることで社会派ドラマとしての側面を強くさせた。また『あやしい彼女』では昭和歌謡の名曲を巧みに織り交ぜるという方法をとる(オリジナルでのキム・スヒョン登場のインパクトを、野村周平でやるということにはちょっと弱い気もしたが)など、いずれもオリジナルの持つドラマ性を、日本のある特定のポイントに変換させることでより豊かにさせていく。

『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(c)2018「SUNNY」製作委員会

 その点では80年代韓国の民主化運動の最中で、その運動によって流入してきた欧米文化への圧倒的インパクトに惹かれながら、友情という普遍的なテーマに向き合う『サニー 永遠の仲間たち』を、90年代後半のコギャル文化と小室哲哉音楽に組み替えて時代を切り取った『SUNNY』におけるローカライズの手法は大成功であるといえよう。

 その国のカルチャーに大きな変化をもたらした時期の、もっとも流行に敏感な世代の群像と、それを現代に器用に結びつけるというプロットは、まさにローカライズのお手本となるべき題材。それを証明するかのようにベトナムリメイク版の『輝ける日々に』が第31回東京国際映画祭で上映されるほか、ハリウッドリメイクも決まっているというのだから、オリジナル作品があらかじめ持ち得ている娯楽性と社会性のバランスは底知れないものがある。

『あの頃、君を追いかけた』

 一方で『あの頃、君を追いかけた』に関してはローカライズをあえて避け“普遍的な青春”を描き出そうとオリジナル版のストーリーラインや描写、小ネタまでも忠実に再現していくという、『SUNNY』とは正反対のアプローチをとる。しかしここで立ちはだかるのは、オリジナル版の監督であり原作者でもあるギデンズ・コーの自伝であるがゆえ、描かれている青春群像に普遍性が乏しいという点だ。90年代の台湾の地方都市に暮らす若者たちの生き様は、現代の日本にそのまま置き換えるというのはなかなか無理が生じる。

 しかも、台湾と日本の気候の違いであったり、制服に個人の名前が刺繍されてることや卒業式の後に受験を迎えるなど、そのままなぞってしまったがために生じた不思議な描写が連続していく。さらにオリジナルで大きな鍵となった「921大地震」が、描かれる時代的にも「東日本大震災」に置き換えられるのかと思いきやそこは明確化させない。おかげで、ただ時空間の歪みに整合性が見出せないまま、オリジナルの最も輝かしい部分に願望として登場する“パラレルワールド”という設定に逃避してしまった印象だ。

 もっとも、対照的なアプローチをとった両作品とも、オリジナルへの圧倒的な敬意というものは強くスクリーンから感じることができる。果たしてそれだけで映画は良くなるのかと問われれば、非常に難しいところではあるのだが、今後日本映画界のトレンドとして、むしろアジア全体のトレンドとして、各国間でリメイク合戦が繰り広げられることは間違いないだろう。その上では、オリジナルのマインドやポリシーを活かしつつも、それぞれの国が持つ色合い、つまりは文化的な側面を反映させなければ意味がないだろう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『あの頃、君を追いかけた』
10月5日(金)全国ロードショー
出演:山田裕貴、齋藤飛鳥、松本穂香、佐久本宝、國島直希、中田圭祐、遊佐亮介
監督:長谷川康夫
脚本:飯田健三郎、谷間月栞
原作:九把刀『那些年、我們一起追的女孩』
製作:『あの頃、君を追いかけた』フィルムパートナーズ
配給:キノフィルムズ
(c)『あの頃、君を追いかけた』フィルムパートナーズ
公式サイト:http://anokoro-kimio.jp

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