清原果耶のモノローグが心に沁みる 『透明なゆりかご』が描いた産婦人科の“光と影”

『透明なゆりかご』が描いた産婦人科の光と影

 母子手帳が重要なモチーフとなった第7回「小さな手帳」。そこで目の当たりにした母と娘の「絆」を思い起こしながら、やがてアオイは自身の母との関係性に思いを馳せる。幼い頃に親が離婚し、女手ひとりで育てられたアオイ。幼い頃から、ちょっと変わった子どもであり(のちに注意欠陥多動性障害の可能性があると医師に診断される)、その態度がときに母を執拗に苛立たせ、その記憶が今も心の奥底に澱のように残っているアオイ。そう、アオイもまた、母親から生まれたひとつの「命」なのだ。そう考えたとき、アオイの「命というものがよくわからない」という言葉は、「私というものがよくわからない」と同様の意味を持ち始めていくのだった。そんな第7回の最後、一念発起のもと、これまで見ないようにしていた母親の母子手帳に目を通しながら、アオイはこんなふうに言葉を綴っていく。

「小さな手帳は愛で溢れてた。でも、その純粋な愛はずっと続くとは限らない。傷ついたり歪んだりして形が変わってしまうこともある。ただほんの一瞬でも、世界中の誰よりも愛されていたという証があれば、私たちは生きていける。そして、いつか誰かを愛することもできる気がする」

 妊婦たちへのまなざしが、生まれた子供たちに対する願いや祈りに変わり、それがやがて自分自身へと向けられたとき、彼女のなかで何かが緩やかに変わり始める。もはや彼女は、最前線の傍観者ではない。「わからない」――最初はそうとしか言えなかった物事が、「他人事」を通じて、いつしか「自分事」へと変わっていくような、そんな大きな流れが、実はこのドラマの根幹にはあるのではないだろうか。かくして、最終回をもって、「命」の現場に触れたアオイの夏休みは終わってゆく。いわゆる甘酸っぱい体験とは違うけれど、何よりも濃密で忘れがたい「ひと夏の体験」を過ごした彼女は、その最終回の最後に、一体どんな言葉を発するのだろうか。それが今から楽しみでしょうがない。ハンカチ片手に待機します。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■放送情報
ドラマ10『透明なゆりかご』
NHK総合にて、毎週金曜22:00~放送
出演:清原果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama10/yurikago/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる