瀬々敬久のフィルモグラフィは連続性が見えてくる 『菊とギロチン』の“伸びやかさ”と“お祭り感”

松江哲明の『菊とギロチン』評

 主演の木竜麻生さんほか、東出昌大さん、韓英恵さん、寛一郎さんと役者たちがみな素晴らしいですが、その中でも日本映画界のバイプレイヤー、渋川清彦さんと川瀬陽太さん、篠原篤さんが相変わらずの存在感でした。篠原さんは頑固な夫役をやるとテッパンでいいですね。いい役者が適材適所でちゃんと芝居を見せてくれる。渋川さんは女相撲の当主としてどっしりと構えているからこそ、周りの女性たちも自由に動いているように見えました。

 そして、とにかく主役の4人の並べ方が素敵です。東出さんと韓さんという出演作も豊富で演技達者な2人と、役者としてのキャリアがまだ浅い、木竜麻生さんと寛一郎さんの2人を組み合わせる。劇中でも、寛一郎さんは東出さんと、木竜さんは韓さんと先輩後輩という立ち位置で。劇中で演じるキャラクター同様に、「ここで役者として勝負しないとダメだぞ」という瀬々監督からのメッセージがある。そして先輩たちもそういった荒波に放り込まれた中で自身を磨き上げてきたキャリアを持っている。

 名刺になるような“代表作”を得るためには、ここまでやらないといけないぞという気概が、監督からだけではなく、役者からも伝わってくるんです。東出さんのキャリアも面白いですよね。デビュー作『桐島、部活やめるってよ』では、校内ヒエラルキーで上位で何でもできるけど自分自身に燃えるものがなく、どうしていいか分からない高校生・宏樹を好演していました。その後も、『クローズ EXPLODE』で豊田利晃監督、『GONIN サーガ』で石井隆監督、『クリーピー 偽りの隣人』で黒沢清監督、『関ヶ原』で原田眞人監督など、挙げていったらキリがないほど、わずか数年間の間に多くの“作家”と仕事をしています。テレビドラマにも数多く出演されていますが、あくまで自分の嗅覚でそのときにしかできない仕事を選びとっている感じ。30代に入り、引っ張れる若手ではなく、引っ張っる側に回っているのがまたすごいですね。作品の選び方に役者としての誠実さが表れていますね。

 女力士のキャスティングも素晴らしいです。最初に映ったカットでどんな事情をもって、女相撲の世界に足を踏み入れたのかが垣間見えます。嘉門洋子さん、山田真歩さん、そして和田光沙さん。和田さんは、サトウトシキ監督や、堀禎一監督のピンク映画にも出演されている女優さんなんですが、それぞれの持ち味を最初のシーンではっきりと見せてくるんです。瀬々さんのキャスティングは、役になりきってくださいというよりも、役者自身が持つ個性をとても上手く活かしている。

 常識から外れたものを徹底的に叩く風潮や、政府への不信感、さまざまな偏見や差別など、本作が描いてるテーマは、現在の日本を思わずにはいられないものばかりです。その一方で、誰でも経験しうるごくごく私的な感情も描かれています。古田大次郎(寛一郎)が花菊(木竜麻生)の夫(篠原篤)に向かって爆弾を投げ込む姿が象徴的なように、結局最後は個人的な思いが人を動かすんだと。「アナーキスト」という肩書だけで、僕たちとは遠い世界の人間だと思いがちですが、生身で生きていた人って今と大きくは変わらないんだなと改めて思うわけです。それがこういう映画を観る面白さでもありますね。

 僕はこの映画を観て、20年ほど前の自分を思い出しました。瀬々監督を含むピンク四天王、いまおかしんじさんらが七福神と呼ばれていた頃のピンク映画館だったり、その製作会社の国映のマンションの一室だったり、犯罪ギリギリのゲリラ撮影だったり。いま、手持ちの武器はこれしかない、でもそこで何をやるか、というのがかつてのピンク映画イメージです。僕にとって瀬々監督は破綻を恐れないというか、勝ち負けで映画を撮ってる人ではないんです。そのときそのときの志をぶつけるというか、この1本を作ったことで次に何ができるかというのを考えている。瀬々さんのフィルモグラフィは1本1本の完成度を高めていくというよりも、今回はここを重視しようという連続性が見えてくる監督なんです。僕はそういう姿勢に大きな影響を受けていますね。

(構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作『このマンガがすごい!』がテレビ東京系にて10月より放送。

■公開情報
『菊とギロチン』
テアトル新宿ほかにて公開中
監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助・瀬々敬久
出演:木竜麻生、東出昌大、寛一郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太
ナレーション:永瀬正敏
配給:トランスフォーマー
2018年/日本/189分/カラー/シネスコ/DCP/R15+
(c)2018 「菊とギロチン」合同製作舎
公式サイト:http://kiku-guillo.com/

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