全てが過剰! アンディ・ラウ×ハーマン・ヤウ『ショックウェイブ』から感じる香港映画の意地

加藤よしきの『ショックウェイブ』評

 劉徳華ことアンディ・ラウ! 俳優・歌手としてアジアの最高峰を走る香港の大スターであり、数々の苦難を乗り越えてきた奇跡の人である。若き日には、その人気ぶりからチャイニーズ・マフィアに目をつけられて「俺たちの映画に出ろ」と銃が持ち出されるブッキングを受け、やや落ち着いた頃には熱狂的ファンに命を賭けのストーキングを受けたこともあった。最近でも2017年にCM撮影中の落馬事故で骨盤と脊髄を損傷。かなりの重傷だったが、今では完全復帰してアクション映画をガンガン撮影中である。まさにエネルギーの塊のようなスーパースターだ。そんなアンディの新作『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』(17)は、香港映画の意地を感じるエネルギッシュな傑作に仕上がっている。

 香港警察の爆弾処理班のチョン(アンディ・ラウ)は、潜入捜査で爆薬を使う強盗グループに接触。リーダーのホン(チアン・ウー)の信頼を得て、強盗事件に参加するも、想定外の事態が発生して大カーチェイスに発展する。香港警察は激闘の末にホンの弟らを逮捕したが、肝心のホンを取り逃がしてしまう。それから18カ月後。よりにもよって香港警察のパーティー会場で、チョンの同僚がホンに爆殺される。かくして戦いの狼煙は上がった。ホンは完全武装の部下を率いて香港の海底トンネルを占拠し、数百人の人質とトンネルその物を盾に超高額の身代金を要求。その交渉役には因縁のチョンを指名し、まず弟を刑務所から連れてくるように迫る。しかしホンの弟は「もう犯罪とかしたくないです。兄にも会いたくない」と刑務所でスッカリ改心していた。ドンドン状況が混沌としていく中、さらにチョンの大切な恋人にもホンの魔手が迫る。トンネルは!? 人質は!? 恋人は!? 香港は!? 今、全ての危機はアンディ・ラウの背中に託された!

 香港アクション映画の傑作『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(92)の日本公開時に、息つく暇もないことの表現として「酸欠ハード・アクション」という名コピーが生まれた。本作『ショックウェイブ』も同様の酸欠ハード・アクションだと言っていい。粗筋からも分かるように、本作は危機また危機の釣る瓶打ち。監督のハーマン・ヤウは90年代に血みどろ実録映画の金字塔『八仙飯店之人肉饅頭』(93年)を手掛けた人物だが、今回は生来のエクストリーム志向が血糊から火薬に向けられている。クライマックスの敵も味方もヤケクソになっての大銃撃戦は、人間の残虐性を描き続けてきた彼にしか描けない地獄絵図だ。一方アンディはと言うと、苛烈で残酷な物語の中でもアンディ・ラウはアンディ・ラウ。真面目さが服を着て歩いているようなナイスガイっぷりで、人が次々と爆死する地獄絵図の中を懸命に駆けまわる。恋人とのベタなやり取りも、一歩間違えば大事故だが、そこは流石アジアの大スター、しっかりハマっているから恐ろしい。ハーマンの過剰な地獄絵図に、アンディの過剰な真面目さ。相反する二人の個性が見事に合致、互いを高め合っていると。この映画は過剰だ。火薬も、銃撃戦も、ハーマン・ヤウの非情さも、アンディ・ラウの真面目さも、全てが過剰である。この過剰さこそが香港アクション映画の真骨頂。ここには確かに80~90年代に世界を熱狂させた香港アクションの魅力が詰まっている。

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