綾瀬はるか、いつまでも無色透明な“特殊性” 『ぎぼむす』亜希子の変化は『逃げ恥』平匡と重なる?

綾瀬はるか、女優としての“特殊性”を読む

 そんな亜希子が、ちょっとずつ人間味を獲得していく様子に、思い出されるのは、本作脚本家の森下佳子の師匠にあたる遊川和彦脚本の『家政婦のミタ』(日本テレビ系)。そしてもう一つ、同じ「TBS火曜10時」枠で何かと比較されがちな『逃げるは恥だが役に立つ』の「平匡さん」(星野源)である。

『逃げるは恥だが役に立つ』(c)TBS

 高学歴で仕事がデキて、周りから信頼されていて、見た目も悪くなく、服装なども小綺麗なのに、モテない。「プロの独身」と自分を納得させ、女性と距離をとる。そこには「自尊感情の低さ」があった。

 しかし、平匡は妄想力豊かで行動力あるみくり(新垣結衣)の影響で、固いガードが徐々に壊されていき、人間味が増してくる。

 ただし、距離の縮め方は「毎週火曜はハグの日」と決めるなど、あくまで律儀で真面目。そんな中に夜遅くまで帰りを待っているみくりを気遣う「今日はちゃんと先に寝て下さい」という優しさがチラリと見える。軸となる人格は揺るがず一貫性がありつつも、そこに他者との接触による「化学変化」が加わるのだ。

 『ぎぼむす』亜希子もまた、「あたたかくて、流れているような」「ひだまりのような」良一の存在により、徐々に変わっていく。「自分が死んだ後、娘・みゆきを守ってほしい」と良一に請われ、「二人三脚ではなくリレー」として結婚した亜希子が、第5話で「自分の病気が治ってもずっと一緒にいてほしい」と本当のプロポーズをされ、みゆきを真ん中にはさんで3人川の字で眠る。

 だが、第6話で、回復に向かっていたかに見えた良一の容態が急変。突然の死に直面した亜希子は、喪主として気丈に振る舞うが、世話焼きのおばさん・下山(麻生祐未)に「バカなのかい、キャリアウーマンってのは? (あんたの役目は)悲しむことだよ。みゆきちゃんと一緒に」と諭されると、そこからしっかりフタをされていた感情が決壊。初めて泣いて、ずっと泣き続けて、次の日もまた泣いて、その後にこれまでの仮面が壊れたように、表情が生まれる。

 しかし、そこから10年後。母を亡くした後、父子と2人暮らしでしっかり者だったみゆきは、すっかりダメな感じの女子高生になっていて、その変化に「いかに愛されて暮らしてきた9年だったか」が滲む一方で、亜希子は少し表情が柔らかくなっていて、娘を「みゆき」と呼び捨てするなど、母親らしさが出てきているものの、相変わらず几帳面で律儀で正しく生きている。

 やはり亜希子の軸はブレず、一貫性がありながらも、少しずつ化学変化を受け入れている。その「一貫性」と「変化」のどちらもナチュラルに演じられるのがまた、綾瀬の特殊性の一つではないだろうか。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
火曜ドラマ『義母と娘のブルース』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜23:07放送
出演:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、横溝菜帆、川村陽介、橋本真実、真凛、奥山佳恵、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)桜沢鈴
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、大形美佑葵
演出:平川雄一朗、中前勇児
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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