A.B.C-Z 橋本良亮の演技力に目を奪われる 音楽劇『コインロッカー・ベイビーズ』で見せた可能性

 キク役の時は、斜に構えたクールなキャラを再現。例えば、アネモネ(山下リオ)に拳銃をどこに隠したか問い詰めるシーンでは、一瞬にして凶暴性を顕にし、爆発的な怒りを見せた。また、ハシを思って刑務所の中で苦しむシーンは、キクの中に生じた「悲しみ」という感情を表現するために非常に切ない言い方でセリフを述べ、持ち前の歌唱力で絶望という感情を歌に乗せていた。観る人にキクの感情を投げつけているような印象である。

 一方、ハシ役。これは去年から変わらず素晴らしかったのだが、なんと言っても後半に向けて徐々に狂っていく様が秀逸だ。目の焦点もどこか合っておらず、力なくぽつりぽつりと話すセリフの奥には狂気が見える。中でも印象的なのは、キクに面会に行くシーン。「手首を外せるようになった。ほら、ほら、ほら」と訳の分からないことを言って客席をうろついたかと思えば、「キクはお母さんを殺したからあの音が聞けたんだよね。なら僕はニヴァ(ハシの妻)を殺さなきゃいけない」と無邪気な子供のようにはしゃぎ出す。観客はハシの感情の渦に巻き込まれていくようなイメージだ。

 キク役にせよ、ハシ役にせよ、橋本は感情の出し方が上手い。メインボーカルとしてグループを引っ張っている橋本だからこそ、歌だけでなく演技の表現力も磨かれてきたのだろう。A.B.C-Zといえば、ジャニーズきっての肉体派。どうしてもアクロバットに目が行きがちだ。だが、橋本の演技を目の当たりにした今、ぜひドラマや映画でも積極的に演技を披露してほしいと思う。「橋本良亮」という人物は、まだ世の中に気付かれていない次世代のジャニーズ俳優となる可能性を持っているのではないだろうか。

(文=高橋梓)

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