間宮祥太朗の決断がもたらした苦すぎる結末 『半分、青い。』鈴愛が“死”を要求した背景を探る

『半分、青い。』鈴愛が“死”を要求した背景

 涼次は幼い頃に両親を亡くしてしまった。そんなこともあって、彼は3人の叔母のもとで“愛し殺される”日々を送ってきた。少なくとも“広い意味での”愛には不足のない人生であったのかもしれない。しかし、第97話で鈴愛が光江(キムラ緑子)らに「これからは、“人のために”生きようと思って」と打ち明けるのを聞いた涼次。もちろんここでいう「人」には涼次が含まれているのであって、彼は我に返る。叔母たちからの“溺愛”ではなく、鈴愛からの“献愛”という全く質的に異なった愛を享受しているのだということの大きさに気づいたのだろう。それはただ一方的に受け取っていればいいものではなく、対価として自分もまた鈴愛に何かの形で、幸せを差し出さなくてはならないものなのだと悟ったのかもしれない。だからこそ、しっかりと結果を残さなくてはならない、目に見える形で変化を起こさなくてはならない。そんな思いが、ダメンズから一歩遠ざかるきっかけとなったように思われる。

 元住吉のアドバイスも受け紆余曲折を経て、ようやっと『名前のない鳥』を書き上げた涼次。しかし、監督の座は元住吉に渡ってしまう。すっかりやる気を失ってしまい、再びダメンズに回帰しはじめる。さて、ここで、家族のために生きる決意をする出来事として鈴愛の妊娠があるわけだが、それは涼次にとって“自分よりも大切な存在”をしっかりと認識した出来事であったに違いない。「その子のことが、“一番”大事だよ。その子の未来と鈴愛ちゃんの今が」という台詞に表れているように、ダメンズ性の払拭だけでなく、自分が父親という存在になることで、ある種の責任感を自覚し始めた。自分だけの幸せを追い求めるのではなくて、鈴愛と子供を何より幸せにしなくてはならない。

 これには、先ほどの第97話の鈴愛の台詞からみえる彼女の姿勢とどこか重なるところがある。鈴愛もまた、何よりまず自分のために有名漫画家になるべくまい進してきたが、挫折したという経験を持っていた。鈴愛も涼次も、そこに至るまでの経緯は違えども、どちらも“自分ではない他者”のために生きることの大切さを学んだ。

 第104話での鈴愛と母親の晴(松雪泰子)の会話で、晴は「子供を持つっていうのは、そういうことやな」とつぶやくと、鈴愛が「ん?」と聞き返す。晴は続けて、「自分より、大事なものができてまう」と答えるシーンがある。要するにそういうことなのだ。鈴愛は涼次が夢を持つこと自体を全否定しているわけではない(事実、第105話で鈴愛は「結婚したまま撮るわけにはいかないの?」と聞く)。ただ、鈴愛も涼次も今や、“自分よりも大切な存在”ができたはずなのに、どうしてそれを相談もなくあっさり手放そうとするのか(相談しなかった理由は、涼次曰く「夢を引き返してはいけないと思った」からだとか)。それが鈴愛には皆目理解できなかったのであろう。「一番大事」だというあの誓いは何だったのか?

 とはいえ、そんな涼次に対する鈴愛のリアクションはあまりにも辛辣だ。「死んでくれ」だけではない。続けて「裏切り者! 許せない! いつまで夢見てる! 目覚ませ! 私たちは、年取ったんだよ! もう若くないんだよ! 親なんだよ!」とまくしたてる。鈴愛自身は秋風塾を去るときには、相応の覚悟を決めて新たな人生を歩むことを決意した。夢を断ち切るときの葛藤は鈴愛だって分かっているのだ。それだけ一層、いつまでもあっちへ行ったり、こっちへ行ったりする涼次が受け入れられないのであろう。

 離れ離れになっていくのであろう今後の2人は一体どうなっていくのだろうか? ここまで見解の相違が表出した以上、そう簡単に2人が手を再びつなぐことはないだろう(というより、もうないと言い切ってもいいかもしれない)。今やどんよりと沈み込んだ鈴愛の人生にどんな形で光が差し込むのか、持ち前の力強さで前に進んでいくことを祈りつつ、物語を見続けていきたい。

(文=國重駿平)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回(予定)>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊、上村海成/豊川悦司、井川遥、清野菜名、志尊淳/間宮祥太朗、斎藤工、嶋田久作、キムラ緑子、麻生祐未、
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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