長瀬智也、型破りなキャラクターのイメージを覆す 『空飛ぶタイヤ』で見せた“大人の熱さ”

 長瀬といえば、1996年に放送されたドラマ『白線流し』(フジテレビ系)の大河内渉のような、非常に繊細なキャラクターを演じることもあるが、前述したように、まっすぐな熱さをベースにした、型破りなキャラクターのイメージが強い。

 例えば、2000年に放送された『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)のマコトや、『タイガー&ドラゴン』(TBS系、2005年)の山崎虎児、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(2006年)の榊真喜男など、バカで単純で暴れん坊でありつつも、ハートフルな役柄を演じたときの長瀬はとにかく魅力的だった。2013年に放送されたドラマ『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)もこうした流れを汲んだ主人公だった。

 本作の赤松社長にも、抑えがきかないほどの、ある意味で大げさとも思えるような熱血漢を想像する人も多かったかもしれない。しかし、前述したように、長瀬演じる赤松社長は、かなり感情を抑えた、大人の戦い方をみせる。

 この点に関して、原作者の池井戸潤氏は、筆者が以前インタビューした際に「主人公に対して、小説では外見を細かく書いていないので、どなたがやっても違和感がない」と前置きしつつ、長瀬の演技を「運送業者の経営者として全く違和感がない」と地に足のついた演技を評価していた。

 『池袋ウエストゲートパーク』のとき22歳だった長瀬は、本作では39歳になっている。地に足のついた“大人”を演じることは、ある意味で当たり前であり、特筆すべき点ではないだろう。しかし本作で長瀬が立体化した赤松社長は、物事が前に進まないときや、被害者家族から鋭利な刃物で切られるような鋭い指摘に対して、内から沸きだす熱い思いを体内で爆発させ、相手にぶつけるのではなく、自分自身に昇華させる。分かりやすいカタルシスが得られるわけではないので、やや物足りなく感じるかもしれないが、のちのちジンワリと心に残る、“大人の熱さ”をみせてくれている。

 池井戸氏が述べていたように、まさに原作の赤松社長には適役のように感じる長瀬の演技だ。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■公開情報
『空飛ぶタイヤ』
全国公開中
出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、笹野高史、寺脇康文、小池栄子、阿部顕嵐(Love-tune/ジャニーズJr.)、ムロツヨシ、中村蒼ほか
監督:本木克英
原作:池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫、実業之日本社文庫)
脚本:林民夫
(c)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
公式サイト:soratobu-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる