MCU10年の歴史に寄り添うアイアンマン 『インフィニティ・ウォー』に見るリーダーとしての成長
4月27日に日本で封切りされた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が大ヒット上映中だ。マーベルの人気キャラクターが一堂に会し、巨悪に立ち向かう『アベンジャーズ』シリーズ最新作である本作は、内容の衝撃ぶりから各所で大きな話題を呼んでいる。
すでにさまざまな考察がなされている本作だが、『アイアンマン』(2008)から始まったマーベル・シネマティック・ユニバースの集大成として、10年に及ぶトニー・スターク/アイアンマンの立ち位置が非常に特長づけられている。
正直な話をすると、私はトニー・スタークという人物像について、これまであまり共感できずにいた。というのも、彼が世界の命運を託されたスーパーヒーロ―集団のリーダーとして、あまりにも器が小さいと感じていたからだ。
そもそもなぜ世界随一の技術者かつ資産家のスタークが、世界を守るアベンジャーズ計画の中心人物となったのか。彼を突き動かす信念の原体験は、2008年に公開された『アイアンマン』にて語られる。アメリカで兵器開発のトップをひた走るスタークは、実験のため中東を訪れる。そこで彼はテロリストに誘拐されてしまい、自分の作った兵器がテロリストに濫用されている事実を目の当たりにする。脱出のために、捕虜仲間のインセン博士とともにパワード・スーツを開発し、インセン博士の犠牲によって命からがら脱出に成功した彼は、兵器製造を止め、自らがアイアンマンとなり紛争への抑止力となることを誓うといった具合だ。
実際に『アイアンマン』公開当時のアメリカは、イラク戦争の真っ最中で、作品の持つメッセージ性が時事的なテーマとも重なり、名実ともにアイアンマンを人気ヒーローに押し上げる一因ともなった。
ここで、彼は“兵器に平和を任せることはできない”と学ぶが、今後数々の過ちを繰り返すことになる。『アイアンマン3』(2013)では、『アベンジャーズ』(2012)でのロキの襲撃による恐怖からアーマー依存症となり、大量のアーマー製作に勤しむ。また『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)においては、大規模な平和維持プログラムの副産物として、邪悪な人工知能ウルトロンを生み出してしまい人類を危険に晒すことになる。彼の原体験の教訓とは裏腹に、システムに平和を委ねる試みによる失敗を何度も繰り返してしまう。アイアンマンが紛争抑止の装置になるという行為そのものが、さまざまな危機を地球に招いてしまうのだ。
この“兵器に平和を任せることはできないが、自身がアイアンマンという兵器であるジレンマ”というのが、『アイアンマン』シリーズをはじめとした、トニー・スタークの抱える一つの命題であり面白いところでもあるのだが、彼自身の傲岸不遜な性格も相まって、自己矛盾した印象を観客に与える一因になっていた。
アベンジャーズのもう1人のリーダーにキャプテン・アメリカがいるが、彼の行動原理は“母国アメリカ、そして平和のためにその身を捧げる”といったものであり、一本筋が通っている。リーダーとしてこの2人を比較した際、どうしてもスタークの複雑性が浮き彫りになってしまい、どうにも共感しづらいというのが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)にて描かれる。同作は、国際社会から、アベンジャーズを国連の保護下にとの声が強まり、協定の批准を巡ってチームが2つに分裂する。スタークを筆頭に協定に賛成の派閥ができあがるのだが、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは、「自身の判断で活動することが難しくなる」との懸念から署名に反対の立場を明らかにする。この後さまざまな陰謀が絡み合い、アベンジャーズ分裂という道へとつながっていくのだが、このときスタークは、ソコヴィアで息子を失った遺族にひどくなじられたことをきっかけに協定賛成の立場を明らかにするという、ここでも直情的な動機によってチームを導いてしまう。