『あなたには帰る家がある』は現代のホラー? 中谷美紀の姿に見る“完璧”という呪い

『あなたには帰る家がある』は現代のホラー?

 プライベートも、仕事もそつなくこなして、朗らかで、美しくて、かっこよくて……そんな完璧な正解など本当はないのに、どこかで“それができていない自分“という呪いにかかっている。人間は、完璧ではない。だからこそ、その凹凸を個性だと感じて楽しみ、肯定してくれる相手を求める。その肯定感があれば、人は強くなれる。不倫に苦しめられている真弓が、不倫をしている由紀から「真弓はいい女だよ、今も昔も」と言われても、つい喜んでしまうように。

 不倫がバレた秀明が真弓に謝る姿を見て、「申し訳ない」とはなんだろうと改めて考えてしまった。きっと私たちは常に自分の言動に対して他者に、そして自分自身の良心に言い訳しているのかもしれない。その一方で、その大義名分は「本当はこうしたかった」という欲求のストッパーになっている。「結婚したから恋は引退」と思っていたことが、愛される喜びに触れて「恋は素晴らしい」「今のパートナーが相手じゃ癒やされなくてかわいそうだから」「浮気されるほうにも原因はある」という言い訳をする。だが、その言い訳は、自分の良心をごまかせても、他者には通用しない。魔が差すというのは、他者視点が見えないほど視野が狭まったときのことを言うのかもしれない。

「されるほうにも原因はある」という言葉は、現実を生きる私たちの耳にも聞こえてくる。「いじめられるほうにも原因がある」「セクハラされるほうにも原因がある」……加害者は悪い、でも被害者にも落ち度があったはず、と。そして加害者と被害者の喧嘩両成敗とはいかず、部外者によってどちらも断罪される傾向は年々強くなっているように思う。少しでも魔が差した人がいたら全力で吊るし上げる。みんなが正しく生きようと律する一方で、そのフラストレーションが魔が差す原因にもなっていたら……私たちは自分たちで負のスパイラルを創り出しているのかもしれない。そんなことを考えると、ますます本作が現代のホラーに感じる。私たちは、もっと許し合えるはずだ。そばにいてくれるだけで幸せだと愛を囁やけるはずだ。それができないと帰る家を失ってしまうのだと、家族と過ごす人が多いであろう週末に気づきを与えてくれる金曜ドラマだ。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』
TBS系列にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江、駿河太郎、笛木優子、高橋メアリージュン、藤本敏史(FUJIWARA)、トリンドル玲奈
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫刊)
演出:平野俊一
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/anaie/

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