『西郷どん』は舞台・鹿児島の象徴に 作品のリアリティを当地出身ライターが解析

 早くも5回目の放送を迎える、NHKの大河ドラマ『西郷どん』。登場人物たちの話す方言や、圧巻のロケーションが話題となり、舞台である鹿児島に注目が集まっている。実は、鹿児島出身である筆者にとってたいへん喜ばしいことで、本作が始まってからというもの、どうにもホームシックに陥ってしまっているほど……。その理由は、本作の力強いリアリティに郷愁を誘われてしまうからだ。

 初回放送時から、「方言が分からない」「セリフの半分しか聞き取れない」といった声を多く耳にしていた本作。聞き慣れない単語や言葉遣いに加え、イントネーションまで違えば、たしかに難しい言葉のように感じてしまうのも無理はない。ナレーションで西田敏行が口にする「きばれ」は「頑張れ」を意味し、「わっぜ」は「とても」や「かなり」をという意味で、今の若者もよく使う方言だ。劇中で頻出する「わい」という言葉は関西では自分を指すが、“薩摩ことば”(鹿児島弁)では相手を指す。このあたりも視聴者の混乱を多少招くかもしれないが、言葉と演じる俳優陣との関係は、予想以上に上手くいっている印象を受ける。

 これまでにも多くのドラマや映画で鹿児島弁は登場しているが、その土地の人間からすれば、今ひとつのものが多い。“俳優と言葉”の関係には、それなりの時間をかけなければ、満足いくリアリティは望めない。その点つねに撮影が進行し、1年間をかけて放送する大河ドラマは、回を重ねるにつれて俳優とキャラクターのシンクロ度は深まってくるはず。とすれば、“俳優と言葉”の関係も間違いなく深くなっていく。それも主役を演じるのはストイックな役作りで知られる鈴木亮平である。もちろん薩摩言葉だけでなく、西郷という人物の生涯をその身体でどのように体現していくのか、毎話期待が高まる。回を重ねるにつれ、俳優陣の発する“薩摩ことば”はさらに流暢なものとなってくるのであろうが、あくまでも大河ドラマの、見世物としての側面とのバランス取りが重要となるだろう。

 視聴者の方の多くも、最初のうちは聞き慣れず苦戦するのは当然だが、見続けるうちに物語の文脈から少しずつ理解できるようになる。なんとか諦めずに、西郷たちとともに、奮闘していただきたいものである。

 第4話で藩主・斉彬(渡辺謙)が誕生したことで、今後ますますメインの舞台として扱われることになる「磯御殿」を含めた「仙巌園」。桜島を築山に、鹿児島湾(錦江湾とも呼ばれる)を池に見立てた圧倒的な美しさを誇る景観は1958年に国の名勝に指定され、鹿児島では一般的に「磯庭園」として親しまれている。2008年の大河ドラマ『篤姫』でも、撮影ロケ地として大きく扱われ、以降かなりの賑わいを見せていた。小松帯刀(瑛太)が駆け上がった石段などは、それを示す看板が設置され、訪れた人々の注目を集めていたが、筆者なども大河ロマンに浸りながら、何度も駆け上ったものである。本作でもその石段は、西郷吉兵衛(風間杜夫)、小吉(渡邉蒼)ら親子の会話の場面などで第1話から早々に登場し、舞台セットではない、実在のロケーションの真実味が、場面の強度を上げていた。

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