ベン・ウィショー、なぜパディントンの声にハマる? その意外な共通点を探る
映画『クラウド アトラス』でウィショーが演じた青年フロビシャーの繊細な演技も思い出した。6つのエピソードが複雑に交差する物語の中で、彼が演じたフロビシャーは1930年代に生きる青年だ。彼は偉大な作曲家になる夢を叶えるため、同性の恋人と離れ、ある音楽家の採譜係(演奏された音を楽譜に書きおろす仕事)として働く。その中で彼は「クラウドアトラス六重奏」という素晴らしい楽曲を作りだすが、音楽家に功績を奪われそうになり、相手を殺めてしまう。時代が時代のため、同性愛者だという事実も彼を生きにくくしていく。フロビシャーには恋人と音楽を心の底から愛しているという信念がある。それが揺らぐことは一度もない。しかし同性愛者だという事実をバラされたり、作曲の功績を奪われそうになった時の微妙な心情の揺れ動きは見事だった。
この時の演技は、本作のパディントンにも通ずるものがある。ひょんなことから捕らえられたパディントンは無実を訴え続ける。その信念を一度も曲げないが、その上で牢獄にいるうちに家族から忘れられてしまうのではないかと不安に思う。その時のパディントンが浮かべる表情は、もはやCGキャラクターではない。ウィショーの演技そのものに思えるし、パディントン自身が演じたように見える。ここまで実写に溶け込んだCGキャラクターは今まで見たことがない。この違和感のなさは、技術チームの実力もさることながら、ウィショーによる繊細な演技の賜物とも言えるだろう。
当初、パディントンはイギリス人俳優コリン・ファースが演じると言われていた。ファースも優しげで落ち着いた声の持ち主だ。彼もきっと繊細な演技をしていたと思うが、彼の声はあまりにも落ち着きすぎていた。ファースは自分の声がパディントンに適していないと感じ、自分から降板したと聞く。一方でウィショーは、礼儀を大切にする“紳士な”くまでありながら、若く楽天的なパディントンを演じた。不安を抱えながらも信念を貫くパディントンの奮闘を、私たちが違和感なく観ることができるのは、繊細な演技を得意とするベン・ウィショーのおかげだろう。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■公開情報
『パディントン2』
全国公開中
出演:ベン・ウィショー(声の出演)、ヒュー・グラント、ブレンダン・グリーソン、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンスほか
日本語吹替版キャスト:松坂桃李、古田新太、三戸なつめ、斎藤工
監督:ポール・キング
製作:デヴィッド・ハイマン
原作:マイケル・ボンド
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:http://paddington-movie.jp/