『おんな城主 直虎』巧みな囲碁の演出が示すものーー徳川家最大の悲劇に向けて

『おんな城主 直虎』囲碁の演出が示すもの

 そしてもう一つ、万千代もまた、この囲碁の物語に僅かながら加担している。私は以前、42話における家康の寝所の囲碁盤と万千代を見て、いつかは家康と万千代が囲碁を興じる時がくるのだろうかと妄想した。直虎における政次のような、万千代にとっての囲碁の相手は誰に当たるのだろうと思っていたからだ。

 だが、次の回である43話において形式的にではあるが、万千代は信康と碁を指したことで愕然とした。その後、家康が万千代に「(信康と万千代)は主従として年のつりあいもよい」と語り、10数年後信康に家督を譲った後のことを匂わす。それを聞いて嬉しそうに笑った万千代は、「若のお役に立てるように殿のもとで精進したい」と答える。信康と万千代、その直虎と政次にも匹敵するかもしれない主従関係、起こりえたかもしれない理想の未来を、その囲碁のシーンはさらりと示している。そしてその未来は儚くも夢と消えようとしている。徳川家に新しい男子が誕生し守役になるチャンスを窺ってもいる万千代の調子のよさも調子のよさだが、この事件が、家康や直虎だけでなく、万千代の人生をも揺るがすものであることは間違いないだろう。

 直虎にとって瀬名は「たった一人の女子の友」であった。直虎は過去に一度、今川によって今回と同じように死の危険に晒されていた瀬名を渾身の命乞いによって救っている。だが、彼女の命乞いがきっかけで今川に目をつけられた井伊はその後、跡継ぎである直親(三浦春馬)を失うことになる。この事実は、当時の彼女を大いに苦しめるものであった。直親の死、政次の死、彼女が乗り越えてきたあらゆる悲劇の要素を含みながら、再び彼女の前に大きな悲劇が立ちはだかろうとしている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿

■放送情報
『おんな城主 直虎』
[NHK総合]毎週日曜20:00〜20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00〜18:45
作:森下佳子
出演:柴咲コウ、菅田将暉、小林薫、市原隼人、貫地谷しほり、井之脇海、阿部サダヲ、菜々緒、尾美としのり、高嶋政宏、和田正人、古舘寛治、尾上松也、市川海老蔵、柳楽優弥
制作統括:岡本幸江
プロデューサー:松川博敬
演出:渡辺一貴、福井充広、藤並英樹
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/naotora/

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