朝ドラに“帰ってきた”女優・木村佳乃と菅野美穂 『ひよっこ』で演じた対照的な女性像を読む
有村架純に「できれば朝ドラにいつか母親役として帰ってきてほしい」と言ったのは、『ひよっこ』の脚本家、岡田惠和だ。最終回前日の『あさイチ』での発言だった。
朝ドラのヒロインを演じて、母親として戻ってくるということは、なかなかできることではない。まず、1年に1作か2作しか放送されないため、ひとりないしふたりの朝ドラヒロインに選ばれることも難しければ、そのヒロインが母親世代になるまでに、20数年の月日が必要であるし、そのときまで役者として演技を続けていなければならない。そして、朝ドラの母親役を演じられる、以前とは違った自分になっていなければいけないからだ。
それでも朝ドラには、毎年たくさんの俳優たちがキャスティングされるし、昨今のキャスティング発表でも、初出演と聞いて、「え? あの人朝ドラに出たことなかったの?」と反応してしまうこともある。
今回も、ヒロインの母親役の木村佳乃は以前にも出演したことがあるし、そのほか、羽田美智子、菅野美穂、和久井映見なども過去に朝ドラ出演経験がある。
これらヒロインの母親世代(40歳前後)の女優たちの活躍も、この『ひよっこ』で印象に残った部分ではないだろうか。
しかも、この年代は娘役を卒業し、30代でキャリアウーマンや、恋に揺れる役も演じ、そこからどういう方向性に向かうのかの分岐点の年齢でもある。だからこそ、この作品で母親世代の女優たちは、また違った顔を見つけ出せたのではないかと思える。
例えばみね子の母親・美代子を演じた木村佳乃は、近年は『ファーストクラス』のクリエイティブ・ディレクターや『僕のヤバイ妻』の資産家令嬢など、都会的なイメージが強かった。しかし、この作品では、奥茨城村の農家で夫の帰りを待つという女性を演じた。
彼女と対照的な存在として登場するのは、女優として東京で活躍する川本世津子役を演じた菅野美穂だろう。彼女は、朝ドラ初出演の『走らんか!』で、主人公が男性ではあったが、ふたりいる女性ヒロインのひとりを担っていたと言ってもいい。そして、前作の朝ドラ『べっぴんさん』では、ヒロイン・すみれの母親を演じているから(程なく亡くなってはしまうが)、ヒロインと母親を演じたと考えてもいいだろう。
この世津子役も、菅野のどちらかというと、年齢を重ねてもちょっと少女っぽいところが残っていて、明るいイメージの逆を行く、大人で落ち着いたキャラクターとして登場した当初は新鮮であった。しかし、そんな世津子には、複雑な生い立ちもあり、女優という立ち場の中に自分を押し込めている部分があったのかもしれない。最後に「あかね荘」という居場所を見つけて、いつもの菅野美穂が演じるような明るく自然な雰囲気のキャラクターに戻っていく様子は、後半の見どころのひとつとしても機能していたように思う。
この美代子と世津子は、谷田部実というひとりの男性を愛したという関係性もある。夫・実の再プロポーズの話を翌日にはあっけらかんと友達に話してしまう美代子と、「雨男(実の記憶喪失のときの名前)さんとの思い出は私ひとりだけのもの」と語る世津子の対比がせつない。