「“素の山田涼介”を出したかった」 廣木隆一監督が明かす『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の撮影ウラ話
Hey! Say! JUMPの山田涼介主演『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が現在公開中だ。全世界販売累計500万部を記録する東野圭吾の同名長編小説を映画化した本作は、監督の廣木隆一と脚本の斉藤ひろしのタッグで制作した人間ドラマ。悪事を働き、廃業したナミヤ雑貨店に逃げ込んだ矢口敦也(山田涼介)、小林翔太(村上虹郎)、麻生幸平(寛一郎)の3人が、32年前に書かれた手紙を発見したことで、不思議な体験に巻き込まれていく模様が描かれる。リアルサウンド映画部では、廣木隆一監督にインタビューを行い、製作の経緯や、本作での登場人物について話を聞いた。
「ラストのシーンは三者三様の動き方がある」
ーー本作の監督を務めることになった際、率直にどのような感想を抱きましたか?
廣木隆一監督(以下、廣木):正直、すごく難しいなと思いました。途中まで仕上がっていた脚本を読んだ時点で、監督の話をいただいたのですが、この作品はファンタジーだし、時空を超えた物語でもあります。だから、映画として一本にまとめていくのが大変なんだろうなと。どのようにまとめるかを考えた末に、一晩の間に敦也たち3人(翔太、幸平)がどのように成長していくかを軸に描くことにしました。ファンタジーだからといって、過剰に幻想的な表現はしたくなかったので、ある程度リアルな感情が見える作品にしたいと考えて作りましたね。
ーー本作は、時空を越えていく物語でありながら、理解しやすいと感じました。時間の流れを描く際に、どんな工夫をしましたか。
廣木:最初に登場するナミヤ雑貨店はとても綺麗ですが、次第に朽ちていく様子を各美術さんが演出してくれました。ロケハンが上手くいって、豊後高田に昭和的な街並みが残っていたので、そこで撮影できたのが良かったです。脚本の段階で斉藤ひろしさんと相談はしていて、登場人物がそれぞれどの時代に出てくるかが決まっていたのも、やりやすかったです。迷える子犬(田村晴美・尾野真千子)は、劇中で常に年齢を重ねているので、そこはしっかりと表現したかったのですが、難しかったですね。
ーー山田さんが「怒られる時も3人一緒だった」とインタビューで話しているのが印象的でした。敦也、翔太、幸平の3人は、それぞれどんな風に演出しましたか。
廣木:登場人物が多いので、「この人誰だっけ?」と思わせないように、3人それぞれのキャラクターをわかりやすくすることに注力しました。ナミヤ雑貨店でのシーンは3人だけの芝居なので、ひとりひとりの役がちゃんと立って初めて3人の雰囲気というか、アンサンブルが感じられる。ラストのシーンは三者三様の動き方があると思っていました。その結果として、原作とは違う結末になっています。
「山田涼介は等身大の男の子の役をあまりやっていない」
ーーベテラン俳優の西田敏行さんと若手3人の役者のコラボは新鮮に感じました。共演シーンはありませんでしたが、現場でも彼らが出会うことはなかったのでしょうか?
廣木:芝居上で彼らが会う場面はありませんでしたが、涼介は自分の出番がなくても西田さんのお芝居を見にきて、どんな風に作ってるのか学んでいるようでした。ロケに行った際に一緒に食事する機会もありました。役者さん同士は、意外と普段はお互いに出会えなかったりするので、この機会に話ができて良かったんじゃないかな。
ーー廣木監督は西田さんと一緒に作品を撮るのが念願だったと聞いています。
廣木:西田さんは、長いキャリアのある名優ですが、現場でそういう役者さん特有のピリピリした雰囲気を作るのではなく、自然体で芝居をしてくれたので、スタッフもキャストもやりやすかったと思います。現場に入られた時から、浪矢雄治の人柄で入ってきたのも驚きました。最初からそれができる俳優さんはなかなかいません。僕にとっても非常に勉強になりました。
ーー廣木監督の前作『彼女の人生は間違いじゃない』の際に、高良健吾さんがインタビューで「廣木さんはその人から出てくるものを確実に尊重してくれる」と話していました。(瀧内公美&高良健吾『彼女の人生は間違いじゃない』インタビュー 瀧内「脱ぐことが表現の一部だと感じた」)今回、主演の山田さんからはどんな部分を引き出そうと考えていましたか。
廣木:山田涼介はエンターテイナーであり、Hey! Say! JUMPのメンバーのひとりでもあります。でも、その時って、“Hey! Say! JUMPの山田涼介”を演じているはずだし、ほかの映画でも等身大の男の子の役ってあまりやっていないので、“素の山田涼介”が映画の中で出てくればいいなとは思っていました。実際に涼介からも、普通の青年の役に憧れというか、やる気を感じたので、そこは意見が一致していましたね。
ーーでは、西田さんからはどんな部分を引き出しましたか?
廣木:西田さんの場合は「どんな芝居してくれるのかな?」と、僕がいち観客のような感覚で見ていました。演出するなんて、とてもできませんよね(笑)。西田さんには引き出しがいっぱいあって、それをひとつずつ開けて見せてくれるような感じでした。とても面白く、楽しませてもらいました。