瀧内公美&高良健吾『彼女の人生は間違いじゃない』インタビュー 瀧内「脱ぐことが表現の一部だと感じた」

瀧内公美×高良健吾インタビュー

 『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』の廣木隆一監督が自身の小説家デビュー作を自ら映画化した、『彼女の人生は間違いじゃない』が本日7月15日より公開された。廣木監督の地元・福島が舞台の本作では、週末になるとデリヘルのアルバイトをするために高速バスで東京へ向かう、福島県の市役所で働く女性みゆきを中心に、戻る場所もなく進む未来も見えない者たちの姿が描かれる。リアルサウンド映画部では、主人公みゆき役で主演を務めた瀧内公美と、デリヘルの従業員・三浦を演じた高良健吾にインタビューを行い、廣木監督の現場でのエピソードやそれぞれの役作りなどについて話を訊いた。

高良「瀧内さんは本当に闘ってたなと思います」

ーー瀧内さんは脚本を読んで何としても今回の作品に出演したいと思ったそうですね。この作品のどのようなところに惹かれたのでしょうか。

瀧内:自分にはないものばかりの本だったということと、すごく余白があって説明がないことが印象的でした。廣木監督の映画を観ていると思うのですが、今回の本はありのままの私を映してくれるような気がして。この仕事を始めた時に、どの監督の作品に出たいかをマネージャーさんと一緒に話していたんですよ。廣木監督はその中のひとりでもありましたから。大人になるにつれて自分の中で隠したくなるような部分ってみんな何かしらあるじゃないですか。廣木監督の映画って、そんなこと気にしなくていいって言われているような気持ちになるんです。なので、私も映画を通してその気持ちを共有したいと思いました。

ーー高良さんは廣木監督からどうしても出てほしいと言われたそうですね。

高良:僕はこの映画の原作になった廣木さんの小説が完成する前、5年ぐらいから廣木さんから「小説で福島のことを書こうと思ってる。健吾できたら帯を書いてくれ」と言われていて、事前にゲラも読ませてもらっていたんです。それも大きかったんじゃないですかね。最初に本を読んだ時から自分は三浦という役なんだろうなとは思っていました。

ーーデリヘルの従業員という特殊な役柄ですが、役作りはどのように行ったのでしょうか。

高良:デリヘルを呼びまくって……っていうのは冗談ですけど(笑)、やっぱり現場で電話をかけたりしましたよ。こういう口調なんだとか、こういうことをするんだとか。だいたいみなさん明るかったですね。デリヘルを使ったことがある人に話を聞いたりもしました。ただそれよりも、映画を観ればわかりますが、三浦はデリヘルの従業員として働いている時も“演じている”んです。なので、三浦は常に“演じている”ということは意識していました。でも、準備とかは自分が不安だからやるだけだなとは思います。

ーー準備よりも実際に現場に入ってというか。

高良:そうですね。不安だからたくさん準備をするし、準備をしないと現場に入れる気持ちにもならないのは確かです。でも、準備をしたからといってできるのかはわからないですからね。とにかく自分の不安を減らす作業な気がします。

ーー瀧内さんはオーディションで選ばれたそうですが、オーディションはどんな内容だったんですか?

瀧内:オーディションは廣木監督とお話をする、面接みたいな感じでした。「両親のどちらと仲がいいですか?」とか「どちらが好きですか?」みたいなことを聞かれて。廣木監督はすごく丁寧に聞いてくれたので、私はオーディション中ずっと泣きっぱなしになってしまったのですが、自分の深いところまで掘られた時には言葉が出なくなってしまって。それでも何かを言おうとしたら、監督が「別に無理して言わなくていいよ」って言ってくれたんです。こういう面接をやることは結構あるのですが、多くの人は大抵その場で答えを見つけようとするんですよね。もちろんその役にベストな人を見つけるために、その人のことを知ろうとするのは当たり前だと思うんですけど、「別に答えは出さなくていい」「自分の中にあるんだったら言わなくていい」って言ってくれた人は初めてだったので、すごく救われたような気がしました。

ーー主演に抜擢された決め手のようなものはあったんですか?

瀧内:その面接で私は自分の負のオーラ全部投げつけてしまって(笑)。自分自身はスッキリしたのですが、うまくいかなかったなと空を眺めながら帰ったんです。そしたらその姿を監督が遠くから見ていたようで、その空気感がすごくよかったと言ってくれて、決めていただいたみたいです。

ーー撮影現場はどのような雰囲気だったのでしょうか。

高良:瀧内さん、ボロボロでしたよね。

瀧内:はい(笑)。ボロボロでした。ただただ廣木監督にじーっと見つめられるんですよ。余計なことを全部剥ぎ取られるような感じ。撮影初日なんて、口には出さないですけど、「なんだお前」みたいな空気で、それがすごく怖かったんです。否定もしないし、肯定もしない。

高良:めちゃくちゃ大変そうだったよね。でもこの題材でみゆきという役をやるのはそこまでのことですから。本当に闘ってたなと思います。僕はそれがある意味羨ましくもあったんです。大森南朋さんや寺島しのぶさんもそうですけど、廣木組でやってきた先輩たちは、みんな口を揃えて「廣木さんが怖いのは最初だけだよ」と言うんです。でも、だんだんと呼ばれるようになってくると、信頼してくれて、その人から出てくるものを拾ってくれる。それはそれで怖いことでもあるんですよ。だから、最初でやられまくってるから「絶対、大丈夫」って僕は思っていました。

瀧内:一度、あるシーンで「はい、カット。そんなCMみたいな芝居やめて」って言われた時は衝撃を受けましたね。まず声の出し方から言われてしまって。「普通に言えばいい」と言われたんですけど、「普通って何? 監督の普通って何だろう」って考えてしまったんです。でもそういうことじゃないなって。相手が求めていることをやるのが役者の仕事だという方もいると思いますが、それだったら自分がやる意味がわからない。廣木監督と時間を過ごしていくことで、セリフの裏にある思いとか考えが、自分自身に足りないことに気づかされました。なので、そういうことを想像しながら、セリフの意味とか理由をどんどん書き出したりして撮影に臨みました。

高良:廣木さんはその人から出てくるものを確実に尊重してくれますから。何も出てこないと諦めたら説明をしてくれますけど、役者としては説明されるのはちょっと寂しいことですよね。

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