渡邉大輔の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』評:『君の名は。』との関係と「リメイク映画」としての側面を考察

24年ぶりのアニメ化リメイク

 現在劇場公開中の新房昭之総監督・武内宣之監督によるアニメーション映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、知られるように岩井俊二監督が1993年に手掛けたテレビドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(連続オムニバスドラマ『if もしも』の一編として放送された後、95年に再編集して劇場公開)のリメイクです。

 「原作」となった50分のドラマ作品は、九十九里浜に面した千葉県飯岡町(現在の旭市)近辺を舞台にした少年少女たちのひと夏のジュブナイルラブストーリー。地元の小学校に通う典道(山崎裕太)と祐介(反田孝幸)は親友同士でしたが、ともに同級生の美少女、及川なずな(奥菜恵)に片思いをしています。ところが、なずなは両親の離婚により、密かに夏休み明けの転校を控えていました。ある時、プール掃除の合間に水泳競争をしていた二人を見かけたなずなは、勝った方と町の花火大会の日に駆け落ちしようと思いつきます。他方、典道の友人たちは放課後の教室で「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか、それとも平べったいのか?」という疑問をめぐって議論をしていました。ついに彼らは町の外れにある飯岡灯台に昇って確かめようということになります。物語は打ち上げ花火の謎をめぐってささやかな冒険に出掛ける少年たちと、プール競争の結果によって二つの異なった運命を辿ることになる典道となずなの小さな恋物語を交錯させながら描いていきます。

 繰り返すように、本作は連続テレビドラマの一編として放送されながらも、当時珍しかった「フィルム効果」を使って撮影され、逆光やソフト・フォーカス、レンズフレアなどを駆使した繊細で情緒的な映像表現、独特のフラッシュカットなど後に「岩井美学」と称されることになる岩井独特の映像世界が早くも縦横に展開され、放送直後から大きな反響を呼びました。他ならぬぼく自身も当時、小学6年生の夏休みの終わり、たまたまオンエア時に観て強い印象に残ったことを覚えています。同年にはテレビドラマ作品としては異例の日本映画監督協会新人賞を受賞し、映画監督進出に繋がる岩井の出世作となったばかりか、その後もカルト的な名作として一部で熱狂的に支持され、またオマージュやパロディの対象になってきました。とりわけ有名なのが、今回のリメイク版の脚本を担当した大根仁の演出によるテレビドラマ『モテキ』(10年)の中のパロディでしょう。第2話で登場人物の一人、中柴いつか(満島ひかり)が本作の大ファンという設定で、ロケ地を「聖地巡礼」する様子が描かれるのです。

 そして、発表から24年を経て今回作られた90分のリメイク版ではとりわけ後半部分の展開が新たに付け加えられ、アニメならではの実写原作では不可能だった幻想的な物語が描かれることになります。

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