Less Than TVにはどこにも嘘がないーー映画『MOTHER FUCKER』特別対談 後編

映画『MOTHER FUCKER』特別対談

アンダーグラウンドって美しいものだと思ってるんですよ(谷ぐち順)

一一どんなドキュメントも作者の主観が入ってくると思うんですけど、そこに自分の本当の姿とのズレを感じることはなかったですか。

谷ぐち:なかったっすね。まったくなかったです。

大石:私も、押し付けがましい主観があるのは嫌だと思っていて。ただ、最初のうちは、それこそ「何か仕掛けてやろう」「こういうことを聞いてやろう」って気持ちがあったんですよ。まずライブをがっちり撮って、終わった後に感想を聞いてみようとか。いわゆるドキュメンタリーのイメージで現場に行くんですけど、でもライブが始まる前から事件が起こるんですよ。したら事件撮っちゃうじゃないですか。それに付随したものすごいライブが始まっちゃうじゃないですか。そうなると、その後の感想なんかどうでもいい(笑)。考えてたストーリーとはまったく違うものが撮れてるし、自分の主観なんて入れてる場合じゃないなって思いましたね。起きてることをあるがまま撮っていくしかない。むしろ「これ、一緒に楽しんじゃえ!」みたいな思考になってましたね。

谷ぐち:でも事件事件って言うけど、そんな事件もなかったと思うよ?

大石:いや、こっちからしたら毎日が〈メテオナイト〉っていうか、毎日いろんな事件でしたよ(笑)。

谷ぐち:自分のことだと余計わかんないですね。これ他の人が見て面白いのかどうか。どうですか?

一一いや、すごく楽しかったですし、あとはメッセージの部分をしっかり感じ取れたのが良かったです。

大石:〈Less Than TV〉の人たちって押し付けがましい言葉とか言わないんですよね。感動的なMCも別にないし。そういうハードコア・パンクの人たちの美学だけは壊さない映画にしたいと思っていて。だから言語化したものを入れて変に感動のカタチにするのは違うなと思ってましたね。

谷ぐち:そこらへんがこの作品の魅力だなと俺は思ってますね。泣きが入りそうな尺に行く前に笑いに変わる。そこらへんは自分も気にしてるところなんですよ。音楽作っていくうえでいろんな試行錯誤はするから、もちろんそういうところまで行くんですけど、必ず引き戻しますからね。照れ臭いんです。みんなそうなんじゃないですかね。

一一誰も言葉にはしないけど、この映画では結局、共に生きていくことが描かれてるんですよね。この社会の中で、家族や仲間と共に愛をもって生きていく。そこははっきりと伝わりました。

谷ぐち:あぁ、良かったです。自分がこういう音楽を好きになった理由もそこにあるんだと思っていて。やっぱりアンダーグラウンドって美しいものだと思ってるんですよ。下もなければ上を見ることもなくて、ただその居場所をどんどん広げていくだけ。よりヘンテコな奴らと、よりヘンテコな表現で幅を拡大していけるんですね。そしたら取りこぼしのない、誰もはみ出さない場所ができる。はみ出し者がいろんな常識からはみ出して、もっと飛び抜けた表現をしていれば、孤立する人、仲間がいない人、事情があって孤独になってる人もどんどん取り込んでいける。「あいつがアレで楽しそうにしてるんだから、俺も大丈夫かも」って思えるんですよ。パンクなんてそういう音楽じゃないですか。みんな演奏ヘタクソ、曲も何だかわかんない、でもとにかく楽しそうで勢いしかない。「よし、俺もやろう! やってみた! うわっ楽しい!」って、それだけでいいんですよ。どんな人でも「ここなら」って思える。そういう場所は作りたいですよね。

一一ええ。それが今は現実のものになっています。

谷ぐち:だから俺は変なことやってるんじゃないかな、と思う。美化された場所に行くと「綺麗であるべきなのかな?」って思っちゃうじゃないですか。でもワケわかんない腐ったようなバンドばっかり出てきたら、誰も排除されないですよ。子供にもそれは伝えていきたくて。自分たちのシーンにはいろんな人がいるんです。女装してる人もいるし、障がい持ってる人もいる。それは自分の宝だと思ってるし、その宝の部分だけは息子に教えていきたいですよね。

(取材・文=石井恵梨子/写真=石川真魚)

映画『MOTHER FUCKER』特集

・【リアルサウンド映画部】ISHIYAの『MOTHER FUCKER』評:日本のアンダーグラウンド史に残る傑作ドキュメンタリー

映画『MOTHER FUCKER』予告編
映画『MOTHER FUCKER』予告編第二弾

■公開情報
映画『MOTHER FUCKER』
8月26日(土)~9月8日(金)渋谷HUMAXシネマにてFuckin′レイトショー
9月9日(土)~9月15日(金)シネマート心斎橋
9月16日(土)~9月22日(金)シネマート新宿
9月23日(土)~9月29日(金)名古屋シネマテーク
9月30日(土)~10月6日(金)広島・横川シネマ
10月21日(土)~10月27日(金)仙台・桜井薬局セントラルホール
10月28日(土)~11月3日(金)京都みなみ会館
以降 神戸・元町映画館 他全国順次公開

出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴ほかバンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖、Less Than TV
製作:キングレコード、日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
配給:日本出版販売
1:1.78/カラー ステレオ/98分/2017年/日本
(c)2017 MFP All Rights Reserved.

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