往年のスポ根少女漫画の世界!? 『フェリシーと夢のトウシューズ』は呪われた夢を描く
パリ・オペラ座のバレエダンサーになる夢を目指す少女の奮闘を描いた、カナダ/フランス共同制作の劇場アニメーション『フェリシーと夢のトウシューズ』は、こちらの想像をはるかに超えた、激アツの闘いを描く成長ドラマだった。日本には、『アタックNo.1』、『エースをねらえ!』などの往年のスポ根もの、または俳優の世界を描いた『ガラスの仮面』など、自分の才覚と努力で夢を切り拓いていく青春を描いた少女漫画があるが、まさにその世界がそのまま表現されているのである。
舞台は、折しもパリでエッフェル塔が建築中の19世紀末。幼い頃に親を亡くし、フランス、ブルターニュ地方の孤児院に暮らす女の子・フェリシーは、同じ施設で育った親友の男の子・ヴィクターとともに孤児院を脱走し、花の都パリへとたどり着く。踊ることが大好きなフェリシーは、無謀にも名門・オペラ座バレエ学校に入ろうとする。
コネもお金も、身よりすらいないフェリシーが、どうやって憧れのバレエ学校に入学するのかは後述するとして、とにかく観客は、めくるめく王道の少女漫画のような(ある意味ベタな)キャラクターたちに目を奪われることになるだろう。『ガラスの仮面』で主人公を見いだして指導をする、元天才女優の“月影先生”という登場人物がいるが、本作ではやはり、火事によって脚に怪我を負い、バレエダンサーの道を断念した女性が、フェリシーの母代わりとなって、厳しく、ときに優しく指導をすることになる。ちなみにこの火事とは、1871年にル・ペルティエ通りにあったオペラ座の稽古場が火事で焼失したという史実に則ったものであろう。
『カンフー・パンダ』シリーズなど、多くのアニメーション作品を手がけたテッド・タイが、本作でアニメーション・ディレクターを務めているが、ジャンプして木に結んだベルにタッチして、しぶきを立てずに水たまりに着地するという、まさにカンフー映画のような彼女の指導によって、フェリシーは爪先で全体重のバランスをとる、バレエの基本技術“ポワント”をマスターする。ちなみに本作のダンスの振り付けは、パリ・オペラ座バレエ団芸術監督のオレリー・デュポン、またオペラ座でエトワールとして活躍したジェレミー・ベランガールが務め、リアリティと優雅さを作品に与えている。
オペラ座のクラスで指導する、キザな男性教諭のキャラクターもすごい。彼は、「このクラスの生徒たちは本当に素晴らしい…君以外はな!」と、衆人環視の中で個人を指して批判したり、「君の将来は明るい。…ろうそく職人としてならな!」と言って生徒をクラスから追い出したりする、まさに、“パワハラの鬼”であるが、しかし、フェリシーの才能にいち早く気づく、確かな目を持っているのも彼なのである。日本語吹き替え版では、日本の誇る世界的バレエダンサー・熊川哲也がその声を演じていて、バレエファンは感涙である。
きわめつけは、『ガラスの仮面』における姫川亜弓、もしくは『エースをねらえ!』のお蝶夫人を連想させる、貧乏で天才的なひらめきのあるフェリシーとは真逆の、金持ちで努力型秀才のライバルの登場だ。彼女は幼少の頃からバレエを教え込まれ、フィジカルを鍛えられることで、優しい人間の心を失ったバレエサイボーグとして描かれる。彼女とフェリシーの頂上対決は、さながら『ロッキー4/炎の友情』での、命がけの勝負を連想させる。