パノラマパナマタウン岩渕想太が見た、ウディ・アレン『カフェ・ソサエティ』の魅力

岩渕想太の『カフェ・ソサエティ』評

 ウディ・アレンの最新作『カフェ・ソサエティ』が現在公開中だ。同作はアレン監督が手がけたロマンティック・コメディ。1930年代のハリウッドとニューヨークを舞台に、世間知らずの主人公ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)と、彼からの求愛に迷うヴェロニカ“愛称ヴォニー”(クリステン・スチュワート)、そしてボビーの前に現れるもうひとりの美女ヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)の3人が織りなすもつれた恋模様を描く。

 リアルサウンド映画部では今回、パノラマパナマタウンの岩渕想太に本作を鑑賞してもらい、その感想を語ってもらった。パノラマパナマタウンは、2015年にロッキング・オンが主催する「RO69JACK」でグランプリを獲得し、続いて「MUSICA」「A-Sketch」「SPACE SHOWER TV」「HIP LAND MUSIC」が主催する4社合同オーディション「MASH A&R」でもグランプリを受賞。「ROCK IN JAPAN  FESTIVAL」などの大型フェスや「下北沢SOUND CRUISING」などのサーキットイベントに立て続けに出演している。また、6月7日に3rd ミニアルバム『Hello Chaos!!!!』をリリースするなど、今最も勢いがある若手バンドのひとつだ。作詞作曲とギターボーカルを務める岩渕想太は、現在22歳。映画好きの両親の影響を受けて、高校の頃から映画を観るのが大切な趣味であると語る彼にとって、ウディ・アレン最新作『カフェ・ソサエティ』はどのように映ったのか。

 岩渕想太の映画観

 両親、特に父親がとても映画好きで、その影響を受けて、僕も映画が好きになりました。映画について専門的に学んでいたわけではないので、特別な知識を持っているわけではありません。鑑賞本数も決して多くはないですが、僕にとって映画はとても大切な趣味で、映画愛は強いと思います。

 恥ずかしながら、ウディ・アレンの作品をたくさん観ているわけではないのですが、『カフェ・ソサエティ』のほかに、『アニー・ホール』、『マンハッタン』、『インテリア』、『カイロの紫のバラ』、新しいところだと『マッチポイント』、『ミッドランド・イン・パリ』、あとはコメディー仕立ての『スリーパー』や『カメレオンマン』あたりは観ました。僕は彼の作品の中だとやっぱり、『アニー・ホール』が一番好きですね。彼の作品は、自己への劣等感ゆえのギャグが多いですが、とてもスマートなので自虐ネタというよりも、世の中に対する皮肉にも聞こえます。カメラに向かって話しかけるシーンなど、メタフィクション映画的な要素があるのも面白いです。作風は違いますが、『インテリア』も好きですね。何も起きないけど、重苦しいテーマがただ淡々と描かれている。何も起きない映画好きとしてはとても好きな映画でした(笑)。彼のユーモアって基本的に自虐なんだけど、そうと感じさせないさっぱり感が良いですよね。

主人公ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ )について

 『ミッドナイト・イン・パリ』のオーウェン・ウィルソンをはじめ、ウディ・アレンは主人公に自身を投映することが多いですが、今回の『カフェ・ソサエティ』ではジェシー・アイゼンバーグが見事にその役をこなしているなと感じました。早口な喋り方とか猫背具合とか、ウディ・アレンとの相性抜群だなと思いましたね。ジェシー・アイゼンバーグ演じるボビーは一般的に見て、決してモテるタイプではないと思います。なのに、ふたりの美女・ヴェロニカから愛される。彼の作品の主人公って、結局モテるのが面白いところで。加えてボビーは、なんだかんだ成功もしている。途中までは、おどおどしたボビーで面白いなと微笑ましく見守っていたのですが、徐々にコイツすげぇなって圧倒されちゃって。僕はボビーほど野心も行動力もないので、だんだんと彼に置いてきぼりにされる感覚になりました(笑)。

 こんなこと言うと何言ってんだこいつって感じですが、僕今までの人生の中で恋愛に対して挫折したことがなくて。なので、愛する彼女が自分の叔父さんを選ぶというボビーの大失恋も、推して量ることしかできないなというのが本音なのですが、僕だったらボビーとは真逆で、ひたすら落ち込んでしまうと思います。もっと感傷的になって、失恋ソングなんか書いちゃって、とことんしょげる(笑)。だけどボビーは、振られることをわかっていたんじゃないかと思うほど、切り替えが早かった。僕だったら、あんなにスパッとは切り替えられないなと観ていて思いました。

『カフェ・ソサエティ』と『ラ・ラ・ランド』 

 ストーリー展開は、近日公開の映画で言うと『ラ・ラ・ランド』と似ていると感じました。どちらも“夢と現実のギャップ”をリアルに描こうとしていて、だからこそ綺麗でハッピーな結末ではない。すれ違い、悩みながらも、色んなタラレバを行き来し、ほろ苦いラストにふわりと着地する。両者を比べた場合、僕は、『カフェ・ソサエティ』の方が好きです。『ラ・ラ・ランド』は、“夢と現実のギャップ”こそリアルですが、全体的には現実よりも空想寄りと言いますか、それは『ラ・ラ・ランド』という空想を描いた作品なのでしょうがないことではあるんですが、どうしてもファンタジー色が強い映画だと思いました。たとえば、エマ・ストーン演じるミア。売れない女優だった彼女が最後に突然、大女優となって帰ってきますが、その過程や背景が描かれていないからこそ非現実的に感じてしまいます。

 一方で、『カフェ・ソサエティ』は、ボビーの成功までのプロセスがしっかり描かれており、また時代背景と成功の仕方がマッチしているためリアリティがあります。結局、愛した人と結ばれないというラストの描き方にしても、『カフェ・ソサエティ』の方が、よりビターで、現実に立脚している。『カフェ・ソサエティ』『ラ・ラ・ランド』ともに、ストーリー展開や大まかな枠組みは、とても古典的です。でも、『カフェ・ソサエティ』はよくある話を、ウディ・アレンならではのスパイスで“味付け”している。だから、一味もふた味も違う、そこがやっぱりすごいと思いましたね。

ギャング のベン(コリー・ストール)が好き

 印象に残っているシーンは、コリー・ストール演じる兄ちゃん(ベン)がギャングで、何か問題があると全てコンクリートに埋めて解決しようとするところです。コテコテの笑いだなと思うんですけど、やっぱり面白い。あと、兄ちゃんが「ユダヤ教には来世がないから」って言って改宗するところもツボでした。兄ちゃんの最期もまた、綺麗ごとで終わらない感じがよかったです。処刑されてしまうけど、すごくユーモラスに描かれていて、起こってる事柄としては現実味があるんだけど、それをしっかり娯楽映画に落とし込んでいる。家族のあり方然り、恋の終わり方然り、重い話なのにあっさりと等身大に描いています。

 人生はラブソングや喜劇みたいなことがわりと起き、時には空想のような事実も起こりうる。でも一方で人生は、こうあってほしいが叶わない残酷なものでもある。そんな人生のビター&スウィートをこの作品を観ていて改めて感じました。

 僕はまだ22歳なので、『カフェ・ソサエティ』や『ラ・ラ・ランド』で描かれていた「タラレバ話」がそこまでしっくりこないし、今のところ自分が歩んできた道は、全部正しいと思ってるくらいです(笑)。でも、10年後に観たら、もっともっと味わい深い作品になっているんだろうな、って感じます。

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