小松菜奈の微笑は、撮る側の力量を試す 『沈黙』から『溺れるナイフ』まで表情を考察

 『沈黙─サイレンス─』を見た今、『渇き。』の彼女を思い出すとこんなふうに思えてくる。あの映画で彼女が犠牲者に囁く「愛しているよ」は、誰よりも純粋に本気だったのではないかと。おずおずと、遅ればせにしか愛を認められない周囲のなにもかもに真実を伝えてあげた。だがもう間に合わないのだ。あの映画のヒロインにとって、愛は初めからそこになければならなかった。囁きは破壊の合図であり、手遅れの真実を告げるものだったのだろう。

 世界は裏切りと沈黙でできているように思われる。これまでずっとそうだったし、今後も変わらずそうなのだろう。映画もさまざまなやり方でそれを描いてきた(近年であれば『トランボ』)。だが、愛を受け入れる時にはそこに微笑が浮かぶのだ。『沈黙』で小松菜奈が与え、アンドリュー・ガーフィールドが受け入れた愛がそのような微笑だったのではないだろうか。

■田村千穂
1970年生まれ。映画批評・研究。著書に『マリリン・モンローと原節子』(筑摩選書)、『日本映画は生きている』第5巻(岩波書店、共著)。2017年度は中央大学にて映画の授業を担当。

■公開情報
『沈黙-サイレンス-』
全国上映中
原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
(c)2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://chinmoku.jp

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