深川麻衣、乃木坂46の“聖母”から本格派女優へ 『プリンセスメゾン』の洗練された演技を考察

 元乃木坂46の1期生、深川麻衣。本格的な女優に転身した彼女が、NHK BSプレミアムで放送中の『プリンセスメゾン』で、沼越えつこ役を演じている。グループを卒業後、初のドラマ出演ということもあり、注目が集まっているようだ。今、最も心をほっこりさせるドラマのひとつである『プリンセスメゾン』で、イメージにあった自然な演技を見せている深川。アイドルとして第一線で活躍していた彼女が魅せる、女優としての魅力と可能性とは。

やさしい時間が流れるドラマ『プリンセスメゾン』

プリンセスメゾン 場面写真
『プリンセスメゾン』提供=NHK

 深川麻衣の魅力に迫る前に、ドラマ『プリンセスメゾン』について。8年間居酒屋勤務で結婚の予定もない26歳の沼越幸(森川葵/通称・沼ちゃん)は、いつか“自分の家"を手に入れるという夢を持っている。夢をかなえるために、少ない収入を貯金に回していた彼女。そして、ついにマンション購入を決意し、自分に合ったずっと住み続けられる物件を探すという物語だ。

 今年は、『家売るオンナ』(日本テレビ系)や『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(テレビ東京系)など、不動産を舞台としたドラマの当たり年と言える。だが、そういったほかのドラマとは一味ちがうのが『プリンセスメゾン』。なんと言っても沼ちゃんのマンション購入に対する意志が強く、そんな彼女のひたむきな姿が健気なのだ。そして、不動産屋側も押し付けがましくなく、彼女に対し実に親身に対応してくれる。

 また、じっくりと物件を探すのと同様に、沼ちゃんが出会う人々についても丁寧に描かれている。住むということに対する彼らの心境や、そこから見える各々の人生など、人物の背景が浮き彫りになっているからこそ視聴者は物語に入りやすいのだ。

 森川を始め、不動産屋の高橋一生、陽月華、志尊淳、舞羽美海といった俳優たちの肩の力が抜けたユーモラスな演技もまた、心地良い。まるで、ベンチに座って海や公園を眺めているような、そんなゆったりとした不思議なペースで進むのが、このドラマの特徴である。

 深川が演じる沼越えつこは沼ちゃんのいとこで、第5、6話に登場。沼ちゃんがなぜ若くして家を買う事にこだわるのか、その過去を知る重要な人物だ。両親を亡くし、身寄りのない沼ちゃんと高校卒業までの一時期を共に暮らしていた。現在は結婚して一児の母である。そんなえつこが子供を実家の静岡に置いて、沼ちゃんのところにやって来る模様が描かれていた。

ドラマ初出演で魅せた深川麻衣の魅力

 深川麻衣は、2016年6月16日に地元静岡で乃木坂46の全活動を終え、25歳という区切りのタイミングで惜しまれつつ卒業。その美しい容姿のイメージ通り、マイペースな優しい性格でメンバーから"聖母"と愛され、創成期から最年長メンバーとして乃木坂を包み込むように支えてきた存在だ。その醸し出す雰囲気はこのドラマの世界観にもピッタリと合っていた。

 えつこと沼ちゃんは元々折り合いが悪く、何となくお嬢様と肩身の狭い居候という上下関係があった。えつこは地元静岡で家族を作ったため、窮屈な生活を送っていた。しかし、沼ちゃんは東京で自由にやりたいことをやっているように見える。そんな沼ちゃんが羨ましくもあり、かなり妬んでいるえつこ。居場所があるから動けない人と居場所を必死に探す人、そんな対象的な2人を観て、何が幸せで、幸せを掴んだ後はどうなるのかを考えさせられた。

 実際の深川は沼ちゃんタイプで、自分で生活費を稼ぐという条件で、アイドルを目指すために上京することを親から許された。バイトをしながらアイドルになるという夢を実現し、卒業した今は女優という新しい居場所を探している。同ドラマで、完全に真逆のキャラを演じているのが面白い。そういう環境もあってか、深川はドラマの世界観に自然に溶け込め、全く違和感がない演技を見せた。

 レギュラー出演者である宝塚の元スター陽月華や舞羽美海と同様、そのジャンルでは知名度とキャリアは充分だが、ドラマを見る一般層にはまだそれほど知られていない深川。だからこそ、変に先入観がなく登場人物そのものとして見られたのも良かったのかもしれない。顔も名前も知らないが、洗練された演技をする舞台女優のような安心感があるのだ。正直ここまでできるとはファンさえも思っていなかっただろう。

 乃木坂の中でも厳選されたメンバーであった深川麻衣。しかし、アイドル特有の個性の強さといったようなものをあまり感じさせない。だからこそ、透明感ある可愛さは女優として強みとなっているのだ。乃木坂46在籍時には、ソフトボールチームを題材にしたドラマ『初森ベマーズ』に出演し、高校生ながら幼い兄妹の面倒を見る“カアチャン”というあだ名の役を演じていた深川。『プリンセスメゾン』の前に、既に母性ある役柄に挑戦しており、今後も若いお母さんやお姉さん役として需要が増えていきそうだ。

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