知的エンターテイメント『インフェルノ』を楽しみ尽くすために ダースレイダーが解説

ダースレイダーの『インフェルノ』評

 この問題自体は非常にリアリティーがあります。ただ、このシリーズの性質上どうしてもラングドン教授の宗教象徴学者としての活躍で、この問題に向き合わなければなりません。その結果、映画自体のリアリティー・ラインが大幅に犠牲になります。ゾブリストはウィルスの所在を、ダンテの『新曲』地獄篇を元にボッティチェリが描いた『地獄の見取り図』の中に隠しますが……なぜそうしたのか? を問い始めると、いわゆる「それを言っちゃあおしめえよ」になります。病院の襲撃シーンでも周囲の反応が、色んな意味でこの世のものでは無さすぎます。観客はキリスト教ワールドを出て、今度はダンテ・ワールドに入って行くのです。

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 ダンテ・ワールドでは、相棒役として登場する美女シエナが「豊富な蘊蓄量をラングドン教授一人に消化させるのはもったいない」とばかりに、教授顔負けの蘊蓄を展開します。もちろん後になって理由は色々わかるんですが、最初のうちは懐かしの「へ~ボタン」を持って待機している気分を味わえます。ただ、惜しむらくは次々と披露される蘊蓄の「リアルさ」が、ダンテ・ワールドのリアリティー・ラインの低さによって損なわれてしまっていることです。先行作品のキリスト教ワールドにおけるリアリティー・ラインはもう少し高めに設定されていたと思うので、そこが本作との違いでしょう。もちろん蘊蓄自体を楽しむ分にはなんら問題はありません。

 さて、実はテロリストが人口問題を解決する映画がもう一本あるので紹介します。『キングスマン』というイギリスの傑作スパイ映画です。サミュエル・L・ジャクソン演じるヴァレンタインという人物も人口増加を憂いてある計画を企てます。主人公はスパイ学校での訓練を経てこの計画に立ち向かいます。作品内にはスパイ蘊蓄というかオマージュが散りばめられているのですが、コメディーなのでリアリティー・ラインを気にせずに楽しめます。同じ思想を持つテロリストに対峙する映画として、知的エンターテイメントを目指す『インフェルノ』と、バカエンターテイメントに徹した『キングスマン』、どっちが本当は頭を使っているのか? を考えるのも面白いと思います。

■DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup
77年フランス、パリ生まれ。ロンドン育ち東大中退。Black Swan代表。マイカデリックでの活動を経て、日本のインディーズHIPHOP LABELブームの先駆けとなるDa.Me.Recordsを設立。自身の作品をはじめメテオ、KEN THE390,COMA-CHI,環ROY,TARO SOULなどの若き才能を輩出。ラッパーとしてだけでなく、HIPHOP MCとして多方面で活躍。DMCJAPAN,BAZOOKA!!!高校生RAP選手権、SUMMERBOMBなどのBIGEVENTに携わる。豊富なHIPHOP知識を元に監修したシンコー・ミュージックのHIPHOPDISCガイドはシリーズ中ベストの売り上げを記録している。
2009年クラブでMC中に脳梗塞で倒れるも奇跡の復活を遂げる。その際、合併症で左目を失明(一時期は右目も失明、のちに手術で回復)し、新たに眼帯の死に損ないMCとしての新しいキャラを手中にする。2014年から漢 a.k.a. GAMI率いる鎖GROUPに所属。レーベル運営、KING OF KINGSプロデュースを手掛ける。ヴォーカル、ドラム、ベースのバンド、THE BASSONSで新しいFUNK ROCKを提示し注目を集めている。

■公開情報
『インフェルノ』
10月28日(金)日米同時公開
監督:ロン・ハワード
原作:ダン・ブラウン
製作:ブライアン・グレイザー、ダン・ブラウン
脚本:デヴィッド・コープ
出演:トム・ハンクス、フェリシティ・ジョーンズ、オマール・シー、イルファン・カーン
配給・宣伝:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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