築地市場には“日本の文化”が刻まれているーー『築地ワンダーランド』が描き出す、人々の営み
正直なところ、本作を一通り眺めても、築地市場のシステムそのものは、依然として多くの謎に包まれている。セリの現場で仲卸が行うジェスチャーは、果たして何を意味しているのか。それらの会計は、いつどのようにして行われるのか、などなど。けれども、そこに「信用」で細やかに繋がれた、ひとつの巨大な「文化」があることは、日本人ならずとも、きっと理解できることだろう。辞書的な意味で言うならば、「文化とは、ある社会を形成する人々によって、習得・共有・伝達される行動様式の総体」を意味する。そう、この映画には、築地のルールを習得・共有・伝達する人々の行動様式の総体、果ては海産物を愛する日本の「文化」が、ありありと描き出されているのだ。
そして、時折映し出される艶やかな海産物を観ながら、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう我々もまた、間違いなく、そんな「文化」の一員なのだ。普段、「文化」と言うと、「場所」や「建造物」、あるいは「作品」といったものに、何かと目を向けがちな我々ではあるけれど、「文化を守る」とは、すなわち「人間を守る」ことに他ならない。習得、共有、そして伝達……本作が射程する問題は、築地市場の移転のみならず、思いのほか深い。帰りに寿司を食べることを心に誓いながら、そう思う筆者なのであった。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。
■公開情報
『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』
10月1日(土)築地(東劇)先行公開
10月15日(土)全国ロードショー
監督・脚本・編集:遠藤尚太郎
取材協力:築地で働く人々(仲卸ほか)
製作・配給:松竹メディア事業部
(c)2016松竹
公式サイト:tsukiji-wonderland.jp