東出昌大、池松壮亮、菅田将暉……繊細な演技が浮き彫りにする『デスノート』の本質

 

 菅田将暉が演じる、デスノートを手にした天才サイバーテロリスト「紫苑優輝(しえん ゆうき)」の物語が描かれる「紫苑篇・狂信」は、新たにデスノートを手にした「キラ信者」が、ノートの力を使って最初の裁きを下そうとする姿を描く、三部作のハイライトだ。彼は、前作で戸田恵梨香が演じていた弥海砂(あまね みさ)同様、自分の家族を殺害した犯罪者に、デスノートの裁きを下してくれたキラを崇拝している。新生キラとして覚醒した紫苑のターゲットになるのは、一家強盗殺人事件で過去に幼い少女を手にかけた男だ。しかし、この人物は、重い罪の意識に悩みながら、更生し社会復帰ようと努力してもいた。

 紫苑(しえん)という名前から連想させるのは、シオン(紫苑)という種類の花の名前である。日本での花言葉は「追憶」、「君のことを忘れない」であるという。さらにヘブライ語でシオン(Sion,Zion)は、「神の都」を意味し、そこに住む民は「神に選ばれた民」であるとされる。キラの遺志を受け継ぐ新たなキラとして「新世界の神」を目指す人間の名前としてふさわしいといえるだろう。

 この3人の俳優によって繊細に演じられる3作によって、前作で描かれた現代の問題が再び浮上してくる。現実社会には法律では裁けない悪があること、そして法律はときに加害者の味方にもなり得ること。そのような理不尽を個人で是正する力を持っているのが「デスノート」である。だが同時に、裁判を経ずして個人が生殺与奪の権利を握ることへの警鐘を鳴らすのも、本作の道義的役割である。前作『デスノート the Last name』は、金子修介監督らしく、社会のあり方について、法律の復権を強調するかたちで決着をつけていた。だが原作は、その一方で「キラに救われた者たち」の存在を示すシーンを付け加えてもいる。そのように、完全な正義も悪もない、現実世界の矛盾を突き付けてくるのが「DEATH NOTE」という作品の本質であろう。

 今年日本で起きた障害者施設での未曽有の殺傷事件が象徴するように、現在の日本社会は10年前に比べ、より精神的に荒んできているように思える。特定の人種、特定の病気を持った人たちへの差別的な中傷が目に見えて深刻化し、メディアやネットで「悪を裁く」という大義名分のもと、集団的なフラストレーションを個人にぶつけて楽しむような仕組みが確立してしまった。また海外でも、違法な麻薬取引で稼ぐ国民を裁判を行わず殺害し、麻薬中毒者を「喜んで虐殺する」と大統領が公言するような事態が起こっている。このような、まさに「DEATH NOTE」の世界観に近づきつつある社会状況のなかで、公開される『デスノート Light up the NEW world』は、どのような結論にたどり着くのだろうか。それによって、作品の価値も大きく左右されるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
Huluオリジナルドラマ『デスノート NEW GENERATION』
<三島篇・新生>配信中
<竜崎篇・遺志>配信中
<紫苑篇・狂信>配信中
(c)大場つぐみ・小畑健/集英社 (c)2016「DEATH NOTE」HOD PARTNERS
「デスノート」チャンネル:http://www.hulu.jp/companies/death-note-channel

■公開情報
『デスノート Light up the NEW world』
10月29日(土)より丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国拡大ロードショー
原作:大場つぐみ・小畑健(集英社ジャンプコミックス刊)
監督:佐藤信介
脚本:真野勝成
出演:東出昌大、池松壮亮、菅田将暉、川栄李奈、戸田恵梨香、中村獅童、船越英一郎ほか
主題歌:安室奈美恵「Dear Diary」
劇中歌:安室奈美恵「Fighter」
配給:ワーナー・ブラザース映画 
(c)大場つぐみ・小畑健/集英社 (c)2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS
公式サイト:www.deathnote2016.com

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