ゴシップガール vs 人食い鮫!? ブレイク・ライヴリーが『ロスト・バケーション』に挑んだ理由

ブレイク・ライヴリー、女優としての可能性

 本作のテーマは非常に分かりやすい。医学生であるナンシーは、母親が病気によって命を落としたことで、自身が医師になることに疑問を感じ、目標を見失い人生に迷っている。彼女は母親の若い日の思い出のビーチに行くことで、母のぬくもりに触れようとしている。その退行的な願望は、ビーチから眺められる沖の島が、彼女には「妊娠した女性のように見える」ことからも明らかだ。だが、ビーチには「いないはず」の鮫によって、彼女は死の危機に直面し、身の回りにあるものを活かし、自身の知識や知恵を総動員して生き残る努力をすることで、生命の尊さや、与えられた条件でベストを尽くすことの大事さを学ぶ。そしてこのビーチで一度死に、人間としてまた生まれ直すのである。この内容を、限定された空間のなかだけで、アクションを連続させながら過不足なく86分の上映時間でタイトにまとめ上げているコレット=セラ監督の手腕は評価できる。

 このテーマが、ブレイク・ライヴリーという女優自身のテーマとも重ねられていることに気付いただろうか。彼女は、かつての青春スターとしての健在ぶりを披露しつつも、鮫との戦いの描写のなかで身体を血にまみれさせながら、ファッションやオシャレな恋愛とは無縁の、人間の極限状態を演じることで、人気の象徴としての存在から、俳優として生まれ直す挑戦をしているのである。主人公・ナンシーの妹が言う、「お姉さんが私の目標よ」という言葉は、彼女がアメリカの少女たちの憧れの象徴であることを指しているのではなく、もう一歩踏み出し、新たな目標へと向かう彼女の姿勢に向けられたものなのである。

『ロスト・バケーション』予告編

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ロスト・バケーション』
7月23日(土)全国ロードショー 
監督:ジャウマ・コレット=セラ(『ラン・オールナイト』『フライト・ゲーム』『アンノウン』) 
脚本:アンソニー・ジャスウィンスキー(『リセット』)
主演:ブレイク・ライブリー(「ゴシップガール」シリーズ『アデライン、100年目の恋』)
配給・宣伝:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.lostvacation.jp/splash/

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