森田剛の連続殺人鬼役は、なぜ恐ろしいのか? “心の内を読ませない”驚異の演技
執念のごとく相手を追い詰め、息の根が止まるまで、振り上げたナイフで”これでもか!”と言わんばかりに、何度も何度も背中を突き刺す。その描写がトラウマになりそうなほどリアルで、正直、瞬間的に目を背けてしまうシーンもあった。夢にまで見てしまいそうで、いつの間にか自分が追われているのではないかと錯覚してしまう。まるで実際に殺人現場に、自分が放り込まれたかのような感覚。森田剛演じる連続殺人鬼、森田正一。彼の人間という獲物を衝動的に捕らえる目は、この世の者とは思えないほど冷たく、地の底を這うような絶望と狂気に満ちていた。
森田剛=ジャニーズ、V6、アイドル。そんなイメージは森田正一登場後、早くも一瞬にして頭から消え去った。そこにいたのは、もちろんアイドル森田剛ではなく、俳優森田剛でもなく、紛れもなく連続殺人鬼、森田正一だったからである。ここのところ映画の宣伝もあってか、バラエティーでよく見かけ、財布は持たないとか、人に会って3秒で好き嫌いを決められるとか、なんだかストイックというのか、掴みどころがなく、独特の感性がある正直な人、という印象を抱いていた。そしてそれは演技に関しても同じで、その期待を裏切らない。
これまであまり映画に出演していなかったせいか新鮮味があり、その予測不能さも功を奏していた。また野性味のある精悍な顔立ちに、高めの声というギャップある組み合わせも、連続殺人鬼を演じるのに好条件のように感じた。高校の同級生で、ビル清掃員のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)とのカフェでの再会。テラスで微笑みながら、岡田とさりげない会話を交わす。たったそれだけのことなのに、なぜかこの森田という男に、”普通ではない危険臭”を感じる。この男が今、自分の目の前に座っているとして、会話をしていて、彼は普通に微笑んで話していて、でもそこに違和感というか、きっと私は居心地の悪さを感じてしまうだろう。
その気持ち悪さとは、森田正一の操る言葉の微妙なテンポのズレにある。それはおそらくコミュニケーション下手を表す意識的な表現であろうが、それがあまりにも自然に組み込まれている。明らかにズレているわけではなくて、零コンマ何秒くらいのテンポであったり、ちょっとした声のトーンであったりが、不気味さを感じさせる。最初はごくわずかではあったが、その後の彼の日常会話から、それは明確になってくる。見知らぬおじさんから注意を受けるシーン、岡田と話をするシーン。言葉云々ではない、会話がコミュニケーションとして成立していないのだ。相手がいるのに、相手がそこにいることを感じさせない、その一方的とも思えるような話し方。それは連続殺人鬼という人物の心情を表現するにふさわしい。どこか異常性を感じる。しかもその目は、死んだ魚のような目とも、光を失った目ともどこか違う。完全に人間を放棄した目であり、錆びているという表現が近いように感じる。日常でも殺人を犯す時でも、そこに変化はない。それがさらに恐ろしさに拍車をかける。これは演技以上、そう感じた。