『HK/変態仮面』はなぜ再び映画化できたのか? “面白いボツ企画”を実現する福田雄一の作家性

『変態仮面』、福田雄一の作家性を読む

 この『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』の脚本・監督である福田雄一の作家性を考えたときに、まず思い浮かぶのは、「王様の耳はロバの耳」という寓話だ。周囲の大人たちが様々な配慮で本当のことが言えない状況のなか、「王様の耳はロバの耳だ!」と子供が言う、あの話である。いわゆるコンプライアンスや行き過ぎたポリティカル・コレクトネスによって、委縮しがちな環境にもかかわらず、「これ、面白いでしょ?」と問いかける勇気は、まさにあの寓話の子供と同じように思えるのだ。

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 番組尺(33分)で事件を解決する探偵、低予算でドラクエを模した冒険活劇、子供版西部警察…などなど、改めて字面で冷静に考えると、「アイデアはいいけど、形になるかなー」とかなんとか言われて、面白いけどボツになるような企画だらけではないだろうか。世の中には、「いいけど、ダメだよね」なんていう話が、どんな仕事でも存在すると思う。しかし、臆せず形にし、評価されてきた稀有な存在が、福田雄一なのだ。

 福田雄一作品の特徴は、ベタなギャグとハイブローなネタが共存していることだろう。誰もが笑えるギャグと、様々なパロディや時事問題というコンテクストを前提としたネタが、混然一体となって展開されてくる。そこに、出演者の持ち味(あるいは、新たな一面)を最大限に発揮した演出が加わり、ドラマともコントともつかない、独自の世界が立ち現れるのである。時折でてくる下ネタも、(本人曰く)「少年ジャンプ」レベルにとどめており、女性に嫌われない強みとなっている。(この下ネタ基準は本作でも同様なので、女性も臆せず見に行けますよ! )

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 また、日本のバラエティのお約束を踏まえている一方で、海外のコメディに造詣が深いことも、独自の世界に寄与している。例えば、『33分探偵』は『フライング・コップ』、『勇者ヨシヒコ』シリーズは『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』というように、日本とは異なる笑いの作り方にも影響を受けているのだ。海外の笑いを、時代の空気感・日本の観客という変数を踏まえて昇華させていく方程式は、福田雄一の放送作家というキャリアの強みが存分に活かされているのではないだろうか。

 さて、『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』だが、もうチラシを見ただけでもどうかしていて、狂気がほとばしっている。ビジュアルは言うに及ばず、「世界からパンティが消える。正義が消える。」という謎のコピー、意味不明だが勢いのある「アブノーマル・クライシス」なるサブタイトル、朝ドラを経て(どうして?)戻ってきた鈴木亮平などなど、よくもまぁこんなものが成立したと、拍手喝采を送らざるを得ない。前作の成功を受けて、ということだろうが、成功したからといってパート2が簡単にできるわけではない。成功したからこそ、様々な思惑が集まり、整理がつかなくなり、結果、成立しない話もたくさんあるのだ。

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