クリステン・スチュワート、波乱の女優人生ーー色眼鏡に晒された“元・子役”はいかに評価を得たか

 ベテラン女優マリアと、そのマネージャーであるヴァレンティン。ふたりの所にある日、マリアがブレイクした作品のリメイク版への出演オファーが入る。マリアに与えられた役は、かつて自分が演じた若き美女役ではなく、その中年の上司役だった。この役を演じるにあたり、マリアは女優として、一人の人間として、大きな壁にぶつかることになる。

 

 マリア役はフランスを代表する女優の一人、ジュリエット・ビノッシュ。そして、マリアと常に行動を共にするマネージャーのヴァレンティン役をクリステンが演じている。主演のビノッシュは、ベルリン、カンヌ、ヴェネツィアの三大国際映画祭を制し、さらにはアカデミー賞まで獲っているフランスの怪物女優だ(当然セザール賞も手中に収めている)。キャリアを振り返ってみると、ジャン=リュック・ゴダール、レオス・カラックスなどのアート色の強い監督と仕事をする一方で、ジョニー・デップとの共演作『ショコラ』('00)や『GODZILLA ゴジラ』('14)などにも出演している。ゴダール、デップ、ゴジラ……まさに誰を相手にしても戦える全局面型の女優であるといえるだろう。そんなビノッシュが「老境に差し掛かった大女優」という、セルフパロディともいえる役を、時に貫禄たっぷりに、時に哀しみをたたえ、時にチャーミングに演じてみせる。

   この変幻自在の繊細な演技に対して、クリステンも真正面から応えてみせた。本作は基本的にビノッシュとクリステンの二人が映画を引っ張っていく。物語は冒頭から、ほぼすべての画面が二人の会話シーンであり、中盤以降、役作りのために山籠もりが始まると、本当に二人しか出てこない。これはもう演技の“タイマン(1対1の勝負)”と言っていいだろう。はっきり言ってしまえば、キャリア的にも評価的にも、ビノッシュの方がクリステンより遥かに格上。完全に食われてしまってもおかしくないのだが、クリステンはそんな格上の大先輩相手に、一歩も後れを取ることなく、堂々と渡り合っている。ある時は親友のように、ある時は保護者のように、葛藤するマリアを受け止めるヴァレンティンを見事に演じているのだ。その存在感はまったくの互角と言っていい。お互いにお互いの魅力を引き出しあいながら、ふたりの女優は見事な化学反応を起こす。マリアとヴァレンティン、ふたりの丁々発止のやり取りは、見ていてとても心地が良い。スイスの絶景や、メタファーが乱れ飛び、入れ子構造になっている複雑な構成、そして示唆に富んだ結末……それらすらも霞むほどに、ふたりのやり取りが魅力的だ。当代きっての大女優を相手に、クリステンはその実力を証明することに成功したと言っていいだろう。

 こうして2014年、インディペンデント系、アカデミー賞系、さらにヨーロッパ系……わずか1年の間に3系統の異なるフィールドで、クリステンは成功を収めた。なお、今後もウディ・アレンやアン・リーといった手練れ監督との新作が控えており、確実に大女優への階段を上り始めているといえるだろう。下積み、大ブレイク、スキャンダル、そして国際的な再評価……若干26歳にして人生の酸いも甘いも味わい尽くした女優クリステン・スチュワート。彼女は今後さらなる活躍が期待される。何せ彼女はまだ若い。女優としてのキャリアはこれからなのだ。『アクトレス』は決して派手な映画ではない。しかしそれでも、この映画は彼女のキャリア初期のベスト・バウト(最も印象的な試合)として輝き続けることになるだろう。

■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■作品情報
『アクトレス~女たちの舞台~』
DVD:¥3,800+税
Blu-ray:¥4,700+税
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツほか
(c) 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS– VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
公式サイト:actress-movie.com

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