巨大ロボットと怪獣が殴り合う! 今夜放送『パシフィック・リム』の“映画的腕力”

 そして、特筆すべきは思い切った物語構成である。いきなりナレーションとダイジェストで世界観を説明し、有無をいわさぬままロボットの出撃シーンとド迫力の怪獣との激闘で、一気に観客を映画に引きずり込む。「怪獣と巨大ロボが殴り合う」この一点を徹底的に描くために、余計な要素は可能な限り省き—しかし、要所要所でしっかりとキャラを立てつつ—テンポよく話を進めていく。それはまるでシュワちゃんの『コマンドー(85)』やスタローンの『エクスペンダブルズ(10)』などのアクション映画が、「○○が大暴れする」から逆算されて作られているのにも似ている。一見すると大胆だが、極めて合理的な物語構成だといえるだろう。こういったアクション映画は、しばしば「脳ミソ筋肉」=「脳筋」とも言われてしまう。しかし、ときには筋肉で無理やり物事を押し通すような力強さも映画作りには大切である。それは映画的な腕力といってもいい。

 抜群のオタク脳を持ちながら、同時に驚異的な腕力も併せ持つ……いうなれば「ムキムキのオタク脳」それがギレルモ・デル・トロの持ち味だ。ニッチなようでキャッチー。理知的な蛮勇。脳筋なオタク脳。本作は日米の特撮に精通したデル・トロの、濃密なオタク的こだわりが楽しめると同時に、映画作家としての圧倒的な腕力を堪能できる作品だ。本作は「ロボットと怪獣」この二つのフレーズにピンと来る人はもちろん、ピンと来ない人をも巻き込むパワフルさがある。まさにド迫力の超大作であり、今回の地上波放送は当代きっての鬼才の手腕を楽しむ、絶好の機会だといえるだろう。

■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■番組情報
土曜プレミアム・映画『パシフィック・リム』
フジテレビにて、3月5日(土) 21:00~23:30
番組サイト:http://www.fujitv.co.jp/premium/

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