『俳優 亀岡拓次』が映し出す脇役の美学 女優・大塚シノブが観たその奥深さ
そんな彼の人生に、横浜聡子監督のシュールでセンスのいい笑いが乗っかり、相乗効果で面白味を倍増させる。あるある、ありそう、ん?!あるかなー?いや、ないだろう…というギリギリのラインで攻めてくるのが、またたまらない。笑いとは、笑わせる意図が作り手や役者側から見えてしまうと、それだけで興ざめしてしまうものだ。しかしこの映画は、いともスムーズに笑わせてくれる。特に個人的には、亀岡とフィリピンクラブのベンちゃんの掛け合いのシーンが最高である。そこに絡んでくる染谷将太演じる横田監督との3人の台詞の間合い、トーン、空気感。全てが絶妙で、臓器から笑いがこみ上げてくる。
他にもこの映画で面白いのは、普段主役級の俳優陣が1シーン、2シーンのみの出演、もしくはほぼ声だけの出演など、脇役に回っていること。なんとも贅沢である。また、三田佳子演じる女優 松村夏子は、映画『Wの悲劇』で薬師丸ひろ子演じる新人女優を不幸へと追いやった大女優の姿を彷彿とさせ、私は背筋が凍りつつも、密かに心躍ってしまった。その他、ヒロインを演じる麻生久美子や、脇を固める新井浩文、山崎努など、実力派俳優やベテラン俳優陣の安定感ある演技力も、この映画を支える柱となっている。
そして最後に、この人を絶対忘れてはいけない。やはりこの人が土台なのである。亀岡拓次を主役として、そして脇役として演じた安田顕。この人の役者としての力量をまざまざと見せつけられる作品だった。非常にリアリティーのある俳優だと感じた。あらゆる場面において、小さな言動、表情一つ取っても、そこに亀岡拓次を演じている安田顕は見えない。役柄のせいもあるのだろうか、押しつけがましさがなく、細胞全てが亀岡拓次なのである。そして亀岡拓次が演じる芝居のシーンでは、芝居1つ1つが熱を持ち、まさに職人芸の域に達している。亀岡拓次を演じられるのは、この人しかいない!私はこうしてすっかり、俳優 亀岡拓次のファンになってしまったのである。
■大塚 シノブ
約5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動していたが、芸能以外の活動を広めるため芸能活動を一時休止。今年から新たなビジネスを始め、中国等での活動も再開予定。
■公開情報
『俳優 亀岡拓次』
公開中
監督:横浜聡子
出演者:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太
原作:戌井昭人「俳優・亀岡拓次」(フォイル刊)
撮影:鎌苅洋一
照明:秋山恵二郎
音楽:大友良英
協力:文藝春秋
製作:『俳優 亀岡拓次』製作委員会
配給:日活
(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会
公式サイト:http://kametaku.com/