『女の子よ死体と踊れ』インタビュー
ゆるめるモ!× 朝倉加葉子監督が明かす、映画『女の子よ死体と踊れ』の撮影秘話
アイドルグループ・ゆるめるモ!が、10月31日より上映される映画『女の子よ死体と踊れ』で初主演を務める。彼女たちは、音楽ライターの田家大知氏がプロデュース経験もなにもないまま立ち上げ、しかし着実にその知名度を伸ばしているというアイドル界でも異端の存在で、“ニューウェーヴアイドル”というコンセプトのもと、幅広い音楽性とメンバーのゆるさが特徴的なグループだ。(参考:ゆるめるモ!プロデューサー田家大知が明かすアイドル運営術「すごい表現方法だと感じている」)。今回は上記インタビューも担当している音楽評論家・宗像明将氏が、朝倉加葉子監督とメンバーへインタビューを行い、作品について深く掘り下げた。(編集部)
ゆるめるモ!の初の主演映画『女の子よ死体と踊れ』の制作が発表されたときには、少なからず驚いた。インディーズのアイドルグループである彼女たちがいきなり主演映画……!? 女優経験があるメンバーは、映画『家族ごっこ』に出演しているもねだけなのだ。
企画・制作は雑誌『TRASH-UP!!』。しかも監督は、壮絶なスラッシャー映画『クソすばらしいこの世界』で知られる朝倉加葉子だ。「クソすばらしいこの世界」は、アメリカで留学生の若者たちが次々に殺されいく、爽快なほどに凄惨な映画だった。
その朝倉加葉子の監督でゆるめるモ!を撮った映画は、驚くほどポップな「ガーリーホラー」。どんな制作過程をたどったのか、朝倉加葉子とゆるめるモ!のメンバー(もね、けちょん、しふぉん、ようなぴ、あの。ちーぼうは欠席)に話を聞いた。
なお、「クソすばらしいこの世界」を見ていたために朝倉加葉子に会うのが少し恐かったことは、ここだけの秘密である。(宗像明将)
ようなぴ「ゆるめるモ!で映画をやるのが想像できなかった」
ーーゆるめるモ!で映画を撮るきっかけはなんだったのでしょうか?
朝倉:雑誌「TRASH-UP!!」の人たちとはお付き合いが長いんですが、久々に電話が来て会いにいったら「ゆるめるモ!でホラー風のアイドル映画を撮らないか」と言われて、面白そうだなと思いました。彼女達を軽く知っていたものの、以降改めて音楽を聴いたり、ライブを見たりしました。
ーーその印象はいかがでしたか?
朝倉:そこそこ音楽好きだったので、「あ、まさかESGじゃん!」って面白かったです(ゆるめるモ!の2014年作『Electric Sukiyaki Girls』はESGオマージュ)。私は仕事柄、役者さんとお付き合いすることが多いんですけど、ゆるめるモ!は普通の役者さんたちよりも生っぽい魅力があるなと思いました。
ーーその「生っぽい魅力」とは具体的にはどんな部分でしょうか?
朝倉:いい意味で芸能人じゃない感じですかね。誰かのふりをしていない感じがあったんですよ。はたから見る感じだと、アイドルって自分を押し殺してがんばる印象があったんですけど、ゆるめるモ!は無理しないで自分たちと向き合っていて、喜びも悲しみも引き受けてる感じで、被写体として画一化されてない魅力がありました。
ーーゆるめるモ!のメンバーは「クソすばらしいこの世界」は見ましたか?
全員:見てないです。
朝倉:いいんじゃないですかね、激しいホラーだし、見てほしいとも思ってなかったです。むしろ見てほしくないなと思いました。
ーーそれはなぜでしょうか?
朝倉:変な先入観を持ったり、緊張をしたりしてほしくなかったんです。
ーー失礼ながら、朝倉監督はお会いするまではどんな恐い人かと思っていたのですが、こんなに穏和な方で驚いています。
朝倉:ハートウォーミングです。ホラー映画とハートウォーミングは両立します!
ーー監督とゆるめるモ!の初顔合わせのときのメンバーの印象を教えてください。
朝倉:個人面談が最初かな? 彼女たちを知りたくて、個人面談の時間を作ってもらって、20分ぐらいお話しして。普通に「何してんの?」って、どんなことを考えているのか世間話をさせてもらいました。
ーーその結果はどうでしたか?
朝倉:薄々思っていた通り、みんなバラバラでいいなと再認識しました。協調性がないわけではなくて、己を向いているし、変に横を向いてもなくて、のびのびしていていいな、珍しいグループだなと思いました。だから、このグループを作っているプロデューサーにも興味を持ちましたね。田家(大知)さん最高だなって。
ーーゆるめるモ!のメンバーは、主演映画の話を聞いたときにはどう思いましたか?
しふぉん:主演ではなくて、まず段階を踏んだほうがいいんじゃないかと思いました(笑)。でも、自然な演技でできたので、一番最初の映画としてはレアな映画だと思います。いい体験できたなと思います。
あの:ホラーとも聞いてなかったんで、どんな感じの映画なんだろうと思ってました。台本が来てからは「あ、死人なんだ……」とだけ(笑)。
ようなぴ:ゆるめるモ!で映画をやるのが想像できなかったですね。「映画やるの!? ほかにもやることがあるんじゃないかな、今なんだ?」って。
もね:「ドキュメンタリーにしたらいいのに」と思いました。演技ができないから、ライブまでの過程とか。
ーーもねさんはすでに映画にも出演していたのでウェルカムな感じではなかったんですか?
もね:ウェルカムな感じまでではないです(笑)。ひとりとグループではまた違うから。
けちょん:「演技できるかな? セリフ覚えられるかな? 演技教えてもらえるのかな? 演技できないけど大丈夫?」って思っていました。
ーー大丈夫でしたか?
けちょん:(メンバーに)セーフ? ギリギリかな?(笑)
全員:(笑)
朝倉:でも、みんなしっかりセリフを覚えてきてくれて、びっくりしました。役柄は私から見た各人の発展形ではあるけど決してイコールではないから難しかったと思います。真摯に取り組んでくれて、よくやっていただきました。ありがたかったです。
あの「顔色が悪いところは死体役に向いてるかなと思いました(笑)」
ーー『女の子よ死体と踊れ』は『クソすばらしいこの世界』のようなグロテスクさがないですね。ポップなぐらいで驚きました。
朝倉:ホラーやサスペンスは好きですけど、ガーリーな映画も好きなので、無理したとかはないですね。
ーーアイドルを撮るにあたって特段意識されたことはありますか?
朝倉:アイドルに限らず、役者さんが10代、20代のときに意識するのは「今」はその時しかないって感じですかね。それはしっかり目を逸らさずに撮りたいなと思いました。
ーー最年少のちーぼうさんに、重要で難しい役を割り当てたのはなぜでしょうか?
朝倉:ちーぼうは、セリフも覚えないといけないし、演出やお芝居の量もあるので、とてもがんばってもらったと思います。ゆるめるモ!って、個性があって、かつ普遍性があって、普通にいる日本の女の子が寄り添いたくなるようなグループだと思うんです。それの入り口にはちーぼうが適任だと思いました。なんとなく(笑)。
ーーあのさんを死体役に起用したのは?
朝倉:あのちゃんは死体に適任とも思ってないんですけど(笑)。死体が復活するホラーってそこそこあるけど、グロくしたくなかったんです。動かない人間が動き出すお芝居をするなら、あのちゃんが表現してくれるかなと思いました。
ーーあのさんは自分が死体役に向いてると思いましたか?
あの:顔色が悪いところは向いてるかなと思いました(笑)。じっとするシーンと、体を張るシーンが多くて、極端な振り幅が得意な方なので、大変だけど楽にできました。細かいことあんまり気にせずにできました。