アトム・エゴヤン監督が『白い沈黙』で問いかけるものーー描かれない“空白の8年間”の意味とは

『白い沈黙』の“不安感”とは?

 “捕虜”や“人質”を意味する本作の原題『The Captive』。その原題が指すのは、誘拐された少女のことだと推測できるが、本作の登場人物は、それぞれが何かにとらわれて生きている。マシューは、自分の不注意でキャスが誘拐されてしまった過去にとらわれ、8年経ってもキャスの姿を追い続けている。同じくティナも、キャス喪失の過去にとらわれると同時に、それが原因で袖を分かつことになってしまったマシューとの関係にもとらわれている。また、ダンロップ刑事は、幼い頃に監禁事件に巻き込まれたという自身の過去にとらわれ、それが原因でさらなる事件に発展する。コーンウォール刑事も、元犯罪課で実績を誇ったという過去にとらわれているが故に、マシューに対して強固な姿勢で疑惑の目を持ち続ける。

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 本作では、監視カメラが象徴的な使われ方をしているが、これにも“とらえる側”と“とらわれる側”の関係性が生じる。エゴヤンが『The Captive』と原題に込めたその意味は、何かにとらわれて生きている我々に対しての問題提起なのかもしれない。そして、一見希望に満ちたかに思えるラストシーンも、映画の中では描かれない“空白の8年間”があるからこそ、ファーストカットの雪景色で覚えた“喪失感”“空虚さ”“不安感”が拭えないまま、ある意味不気味に脳内に焼きついて離れないのであった。

(文=宮川翔)

■公開情報
『白い沈黙』
TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
原題:THE CAPTIVE
出演:ライアン・レイノルズ、スコット・スピードマン、ロザリオ・ドーソン、ミレイユ・イーノス
監督:アトム・エゴヤン
2014年/カナダ/112分/スコープサイズ/5.1ch/日本語字幕:佐藤恵子
配給:キノフィルムズ
(c)Queen of the Night Films Inc.
公式サイト:shiroi-chinmoku.com

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