会社を辞める男とスズメになる女の巡り合いーー『バードピープル』が描く“映画的な奇跡”とは
主人公二人に共通した意識として存在するのが、自由になりたい=鳥になりたいという感情で、度々窓の外に映画の象徴たるスズメが現れるたびに彼らはそれを見つめるのである。しかしながら、この二人は正反対の人間で、劇中でもそれぞれが正反対の道程を辿るのである。
タクシーの中でも運転手と会話をし、常に電話やメールなどで誰かと繋がっているゲイリーは、それらをすべて自らの意思で断絶した「絶対的孤独」を選ぶ。一方で、群衆の中のひとりでしかなく、父親との電話でさえも途切れ途切れになってしまうオドレーは、スズメになることで人と関わろうとするが、コミュニケーションを取ること自体が不可能であり、「相対的孤独」に陥るのである。たとえこの二つの孤独が重なり合っても、それはマイナス×マイナス=プラスになることはなく、マイナスのままである。
それゆえ、正反対の方向へ進んでいく二人が出会い、名前を教え合って握手を交わすラストシーンは、映画における典型的なボーイ・ミーツ・ガールのようで、そうではない。おそらくこの二人はこの後決して再会することはないのである。物語の舞台であるホテルと、空港、そしてオドレーの立場である大学生のバイトというあらゆるテンポラリーが重なり合って紡ぎ出された物語は、いかにも映画的な幸福な偶然であり、たとえ画面から消えた後でも繰り返されることはない、奇跡でしかないのだ。奇跡は一度しか起こらない、というのは、何もイヴ・アレグレのボーイ・ミーツ・ガール映画のタイトルばかりでなく、映画にも現実にも共通していること事実であって、だからこそ、彼らがめぐり逢うラストシーンは、喜びと同時に哀しさをも兼ねて見える。
日本ではジャン=リュック・ゴダールの3D映画によって始まった2015年。1月にアルノー・デプレシャン、春にはジャック・ドワイヨン、夏にはフランソワ・オゾンと、立て続けに公開し、来月にはオリヴィエ・アサイヤスの新作まで控えている。今年はフランス映画ファンにとっては忘れられない1年になるであろう。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。
■公開情報
『バードピープル』
2015年9月26日より、ユーロスペース、新宿シネマカリテ(レイトショー)ほか全国順次公開
監督:パスカル・フェラン 『レディ・チャタレー』
出演:アナイス・ドゥムースティエ 『彼は秘密の女ともだち』/ジョシュ・チャールズ『いまを生きる』
©Archipel 35 - France 2 Cinéma - Titre et Structure Production
公式サイト:birdpeople-suzume.com