『ジュラシック・ワールド』がシリーズ最高傑作である理由 速水健朗が見どころを解説

速水健朗の『ジュラシック・ワールド』解説

22年で驚くべき進化を遂げた、テーマパークと遺伝子組み換え技術

 本作は、スピルバーグ以外の監督によるスピルバーグ作品続編の最高傑作である。冒頭ではそう提示した。その理由は、本作ではスピルバーグ的な作品作りの手法を監督のトレボロウがよい意味でうまく取り入れ、しかもそれが成功しているから。最もそれがよく現れているのは、舞台となるテーマパーク「ジュラシック・ワールド」そのものの描き方の部分だろう。

 映画に登場する「ジュラシック・ワールド」は、かつての「ジュラシック・パーク」が、もう単なるサファリパーク程度にしか見えなくなってしまうほどの、最新鋭のテーマパークとして描かれている。

 パークを訪れたザックとグレイには温度差がある。恐竜好きのグレイは、始めからこのテーマパークに夢中だが、ザックは所詮子どもだましとたかをくくっている。パーク内を移動するライドを兼ねた移動手段であるモノレールが園の概要を俯瞰するための手段なのだろう。これは、ディズニーランドのウエスタンリバー鉄道と同じような機能である。ザックは、特に気乗りしていない。

 パークに到着した人々がまず訪ねるのはビジターセンターである。ここでは、CGホログラムなどによる恐竜の基礎知識を受けることができる。22年前の『ジュラシック・パーク』におけるビジターセンターは、単に等身大の恐竜の骨格模型が置かれているだけの地味な施設だったので、大きな進歩である。まだザックは、特に興味を惹かれないでいるが。

 ザックがこのパークが子どもだましでないのに気づくのは、モササウルスのショーのプールである。プールから餌に向かってジャンプする巨大なモササウルスの上げるしぶきを観客がかぶるというショーの場面は、映画の予告編でも流れていた。ザックだけでなく、この辺りから観客もこのテーマパークに夢中にさせられているのに気づく。

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『ジュラシック・ワールド』/Universal Pictures and Amblin Entertainment

 さらには、「ジャイロスフィア」という球形のカプセル型カーに乗って、巨大草食恐竜たちが生活する湖畔を見学するライドも人気がありそうだ。いわゆる動物園の行動展示の恐竜版である。これは、朝イチで「ファストパスチケット」(昨今のテーマパークに導入されている優先搭乗の権利)に並ぶ必要がありそうだ。

 こんな具合に、現代のテーマパークの特徴を細かに知った上で、実際に恐竜のテーマパークがあったらこうつくるというシミュレートを重ねて描写されている。また、これらは、単に映像的な脅かしではない。その後に起こる物語への伏線にもなっているのだ。

 こうした細部の描写へのこだわりは、スピルバーグを彷彿させる部分でもある。スピルバーグが細部へのこだわりを示す例としての真骨頂は、『戦火の馬』(2011年)において、人間と馬の交流以上に馬と戦車の遭遇場面に重きが置かれていたこと、さらにそこでの戦車の動きの緻密さに現れていたように思う。これを意地悪く捉えると、人間ドラマが書けないということの裏返しに見えるかもしれないが違う。あまりにドラマを書けすぎてしまうから、人間以外の機械や異生物にまで人間的なドラマを埋め込んでしまうのがスピルバーグである。トレボロウ監督も、本作において、人間ならぬ恐竜ドラマの描き方で秀でた才能を発揮している。

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『ジュラシック・ワールド』/Chuck Zlotnick / Universal Pictures and Amblin Entertainment

 今回の「悪役」は、遺伝子操作で生まれた新種の恐竜である。『ジュラシック・パーク』の原作をマイケル・クライトンが刊行したのは1990年。この中で、ヒトゲノムの全塩基配列を解析するプロジェクトが始まろうとしている記述がある(この年にスタートしたヒトゲノムプロジェクトは、2003年に終了)。

 DNA構造の解析がテクノロジーの先端だった時代に描かれたのがシリーズ1作目であるなら、その後、羊のドリー誕生(1996年)などを踏まえ、いまでは遺伝子組み換え技術が当たり前になりつつある時代に『ジュラシック・ワールド』はつくられているのだ。ここにも22年の歳月が......。

 このくらいのネタバレは許して欲しいが、ラストは、「オーガニック」な恐竜と遺伝子組み換え恐竜の戦いになる。ちなみに僕は、アクションの場面に興味がもてない人間で、子どもの頃から、ウルトラマンの怪獣とのバトルシーンになるとすぐに飽きてしまっていた。だが、この映画のバトルアクション場面は、飽きることはなく、惹きつけられっぱなしだった。描かれるのは、極限の戦いの中での恐竜の心と心の交錯。といっても、恐竜に安易なヒューマニズムを当てはめたりするわけではない(ここ重要! 所詮獣。本能以上の行動を描かれたら困るのだ)。気がつくと、再び目頭が熱くなっていた。この監督、スピルバーグ以上に信用できる。

 ああ恐竜は実際に復活させなくていいから、「ジュラシック・ワールド」が実現できないものだろうか。ユニバーサルスタジオジャパンのアトラクションではなく、トレボロウ監督が本作でつくりあげたそのままのテーマパークが伊豆大島くらいの場所にできたのなら、僕は、年間パスだって買うのだけど。

■速水健朗
コラムニスト、ライター。著書『フード左翼とフード右翼』『1995年』ほか。メディア出演『TIME LINE』(TOKYO FM隔週火曜)、『あしたのコンパス』(フジテレビ「ホウドウキョク24」月曜)、『シューイチ』(日本テレビ)、『文化系トークラジオLife』ほか。

■公開情報
『ジュラシック・ワールド』
公開中
配給:東宝東和
メイン画像クレジット:Chuck Zlotnick / Universal Pictures and Amblin Entertainment
公式サイト

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