解読『ジョジョの奇妙な冒険』最終回

【解読『ジョジョの奇妙な冒険』】「メイド・イン・ヘブン」を打ち砕いた「黄金の精神」

※本稿では、『ジョジョの奇妙な冒険』第6部『ストーンオーシャン』のネタバレを含みます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 解読『ジョジョの奇妙な冒険』――最終回となる今回は、同シリーズの第6部『ストーンオーシャン』のクライマックスで、ラスボス・プッチ神父が発動させたスタンド「メイド・イン・ヘブン」と、それに抗った主人公・徐倫(ジョリーン)やエンポリオらの持つ「黄金の精神」について「解読」したい。

「メイド・イン・ヘブン」とは何か

 まず、この「メイド・イン・ヘブン」、DIOや吉良吉影といった、それまでの「ジョジョ」シリーズのラスボスたちが使っていたスタンドとは異なり、攻撃力はさほど大きくはない。ではいったいどういう力を持ったスタンドなのかといえば、それは、全宇宙の重力を利用して、「時を加速させる」スタンドである。

 そしてその「メイド・イン・ヘブン」によって加速させられた「時」は宇宙(世界)を「一巡」させ、新しい世界を形成する。「一巡」後の世界(「天国」)では、人々は、かつての世界で経験した自らの「運命」をあらかじめ知っているため、「覚悟」を持って生きていくことができる。それが、人類にとっての究極の幸福である、というのがプッチ神父の理念である。

果たして宇宙の「一巡」は成功したのか

 だが、この理念が実現することはなかった。なぜなら、宇宙が「一巡」する直前、プッチ神父は、少年・エンポリオを抹殺するために「時の加速」を一時停止させてしまったからだ。

 結果として、これが彼にとっての致命的なミスとなり、ウェザー・リポートのDISCの力を借りて新たなスタンド能力(ウェザーの能力)を得たエンポリオとの戦いに敗れ、絶命する。

 さらに、世界は、その「メイド・イン・ヘブン」の発動者であるプッチ神父の死により、「天国」との因縁そのものが消滅――プッチ神父の存在しないパラレルワールドとして、再構成されるのだった……。

プッチ神父はなぜ「天国」を夢見たのか

 さて、『ストーンオーシャン』のクライマックスを読んで、読者の多くが疑問に思うのは、「覚悟こそが幸福」というプッチ神父の理念の是非についてではないだろうか。たとえば、彼の考えでは、「戦争」や「災害」に自分が巻き込まれることを事前に知っていても、「覚悟」さえあれば、絶望や不安から解放され、「幸福」であるということになるのだが(注・知っていたからといって、未来を変えることはできない)、それに共感できる読者はさほど多くはないだろう。

 ちなみに、このプッチ神父の理念の根底にあるのは、彼の過去のトラウマである。彼はかつて、自分の知らぬ間に妹と生き別れの双子の弟(ウェザー・リポート)が恋仲になってしまうという「運命」のいたずらにより、人生を狂わされた(ふたりを別れさせるために彼が裏工作をした結果、妹は自殺してしまった)。

 この、「何があっても運命は変えられない」という強い確信が、彼の中で、「せめて“次”に何が起きるかを知っていれば、人は絶望せずに済む」という極端な考えを生み出すことになったわけだが、最初にプッチに「天国」の概念を教えたDIOでさえも、この考えには賛同できないのではないだろうか(注・DIOの考えている「天国」は、長きにわたるジョースター家の血統との因縁を絶ち、「運命」の力をも超越し、自らが頂点に立つ世界のことである)。

「すべてが固定された世界を目指す者」と「未来を信じる者」との闘い

 いずれにせよ、このプッチ神父の極端な考え(プッチ神父の本質を見抜いていたウェザー・リポートは、彼のことを「自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪」と呼んだ)に抗ったのが、主人公・空条徐倫たちであった。

 徐倫たちは、プッチが理想とする「運命によってすべてが固定された世界」を真っ向から否定する。なぜなら、たとえあらかじめ決められた「運命」があったとしても、「未来」は自分たちの力で切り開くものだと信じていたからだ(それが彼女たちにとっての「覚悟」である)。そして、プッチ神父に全力で挑み、エンポリオという少年に「希望」を託して散華するのだ。

 これを、「人間讃歌」といわずに、なんといえばいいのだろうか。

受け継がれていく「黄金の精神」

 さて、『ストーンオーシャン』のエピローグでは、プッチ神父を倒し、ひとり「新しい世界」に放り出されたエンポリオが、徐倫やエルメェスらのパラレルな存在(生まれ変わり)と出会う。徐倫に似た女性は「アイリン」と名乗り、彼女の「父さん」(空条承太郎の生まれ変わり)も健在のようだ。

 この世界はたぶん、自らの手で「未来」を切り開くことができる自由な世界だろう。そして、再び恐ろしい怪物――DIOやカーズやプッチ神父のような“人類の敵”が現れたとしても、きっと大丈夫だろう。

 なぜなら、かつて歴代の「ジョジョ」たちに受け継がれてきた「黄金の精神」は、アイリンや彼女の父親の中でも息づいていることだろうし、少なくとも、エンポリオという少年の心(ハート)には、間違いなくそれが刻み込まれているからだ。

[付記]第7部『スティール・ボール・ラン』以降の物語は、この「アイリンの世界」とは異なる、別のパラレルワールドの物語である。

 解読『ジョジョの奇妙な冒険』

第1回「“ジョジョ”という名の時代を越えたヒーローたちの誕生」
第2回「スタンドという“発明”ーー他に類を見ない表現と概念を考察」
第3回「ツェペリ、リサリサ、ブチャラティ……物語を動かす「メンター」たち」
第4回「岸辺露伴とは何者か――稀代のトリックスターを分析」
第5回「荒木飛呂彦はいかにして独特なヴィジュアル表現に辿り着いたか【前編】」
第6回「荒木飛呂彦はいかにして独特なヴィジュアル表現に辿り着いたか【後編】」
第7回 【解読『ジョジョの奇妙な冒険』】自分が自分であるために――ディオ・ブランドーの「悪」の生き様にシビれよ

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