イラストレーター・くろのくろが明かす、『謎解き京都のエフェメラル』装画制作の舞台裏「背景美術の感覚を活かせている」

 アニメ背景美術から書籍装画、MVイラストまで幅広く活躍するイラストレーター・くろのくろ。

 光や空気まで感じられる繊細な風景描写はもちろん、「謎解き京都のエフェメラル」シリーズ(ことのは文庫)をはじめ、作品世界そのものを一枚の絵へと落とし込む表現力でさまざまな作品を彩っている。得意とする背景美術を活かした一枚から映画の宣伝ポスターのような一枚まで、幅広い表現で多くの読者を物語に引き込んでいるイラストレーターだ。

 今回は、絵を仕事にするまでの歩みから背景美術と装画それぞれの制作プロセス、「謎解き京都のエフェメラル」シリーズ制作秘話について話を聞いた。

「謎解き京都のエフェメラル」シリーズ(著:泉坂光輝・イラスト:くろのくろ/ことのは文庫)

趣味の投稿がイラストレーターになるきっかけをくれた

――絵を仕事にしようと思われたきっかけを教えてください。

くろのくろ:学生時代にSNSへ趣味で投稿していたイラストがきっかけで、書籍やアルバムジャケットなどのお仕事をいただくようになりました。そうした中で「絵を仕事にしたい」と考えるようになり、背景美術の仕事ができるアニメ会社へ就職しました。

――ご自身の画風はどのように形作られてきたのでしょうか。

くろのくろ:学生の頃から趣味で人物と風景の両方を描いていましたが、風景を描く方が得意だったため、背景美術の方へ進みました。

 背景美術の仕事を始めたことでたくさんの背景画を見るようになり、そのなかで出会ったのが、アニメーション美術監督・挿絵画家の男鹿和雄さん(※注『となりのトトロ』をはじめとする数々のスタジオジブリ作品の背景美術を担当することで知られる)の作品です。「こんな絵が描けるようになりたい」と思い、今でも一番憧れている存在です。

――くろのくろ先生の絵は季節ごとの光や空気感ごと切り取られた情景の質感が心地よく、細部まで見つめていたい絵だと感じます。背景を描く際に意識していることはありますか?

くろのくろ:もともとリアルに近づけて描くのが好きなのですが、最近はもう少し絵っぽく仕上げようと努力しています。密度がある絵も好きなんですが、絵としての省略や抜きの表現をもっとできるようになりたいですね。

――では、人物を描く際はどうでしょうか?

くろのくろ:人物は絵の中の主役になることが多いので、描くときにはすごく気を遣います。風景画に比べると描く機会が少ないので、人物の方が難しいですね。

 人物を描くときは、絵の中で何がメインとなるのかを考えつつ、背景のほうが勝ってしまわないように気をつけています。

アニメ背景美術を通して身についた「吸収する力」

――様々なお仕事を経験する中で得たものや、ご自身の中で印象深い変化はありますか?

くろのくろ:アニメの背景美術の仕事をしていると、作品ごとに背景も作風もまったく違ってきます。ですので、参加する作品が変わる度に、絵のテイストや描写の細かさ、作中に込められた物語など、目の前の作品から様々なものを吸収しようとしています。

 一人で描いていると自分の絵しか描けないので、他の人の絵をなんとか会得しようすることで自分の成長にもつながるところが、アニメの仕事のいいところだと思います。

 書籍の装画など個人でやる仕事では、今までやった仕事で吸収したものを出す感覚で描いているかもしれません。

――アニメの背景美術と書籍の装画は、同じ絵を描く仕事でもアプローチが異なるように思います。

くろのくろ:アニメの背景美術の仕事だと、一つの作品として仕上がる過程で別の人の手が加わりますので、自分が思ったのと違う画面になることも多いです。一方、装画だとデザインは乗りますが絵としてはそのまま使ってもらうことになるので、その点が1番大きな違いかもしれません。

 背景美術の仕事をメインにしている人の中には、キャラクターが描けない人もいます。私の場合は、アニメなどのイメージボードでキャラクター込みの画面のイメージを作るときには、装画の仕事の感覚が生かされていると感じます。

 私は風景を描くのが好きですが、最近はキャラクターを描くのも楽しいので、今後はキャラクター込みのイメージボードなどもたくさん描いていけたら嬉しいです。

『謎解き京都のエフェメラル』装画の制作秘話

――先程の「吸収する」というお話が印象的でした。装画の依頼では、どのような流れで制作を進めていらっしゃいますか?

くろのくろ:あらかじめ原稿をいただける場合は、作中のワンシーンからイメージを膨らますことが多いです。原稿がない状態でイメージを立ち上げる場合は、作家の先生や編集者の方、デザイナーの方からのリクエストをもとに描いてみて摺り合わせていく……といった流れです。

 原稿に向き合いながら絵に起こすこともしますが、意外とシャワーを浴びているときに良いアイデアが浮かぶことも多いですね。

――ことのは文庫は、表1と表4がつながったカバーが特徴です。『謎解き京都のエフェメラル』の装画の制作秘話を教えてください。

くろのくろ:エフェメラルシリーズは、あらかじめしっかりとディレクションをいただいてから描いています。毎巻、作中の季節感を打ち出すところもそうですね。私自身も四季のうつろいや空気感を感じられる絵が大好きなので、描いていて楽しいポイントです。

 いつもいただくアイデアが素晴らしいので、私のほうで新しく提案を重ねるというよりは、ディレクションをもとに帯やタイトルで隠れない位置に主役を置くように気をつけつつ、配置を試行錯誤しながら制作しています。

――『謎解き京都のエフェメラル』の装画は、著者の泉坂光輝先生が撮影された写真を活かしながら制作されていると伺いました。

くろのくろ:『謎解き京都のエフェメラル』ではいつも泉坂先生がロケハンをしてくださって、物語の舞台である京都で撮った写真をたくさんいただいているんです。とても助かっています!

 せっかく実在する場所が舞台なので、実際に生活している人や行ったことのある人に「あの場所だ」と気づいてもらえるように描くことを心掛けています。いただいた写真とは別のアングルを採用することもありますが、写真を参考に別の角度から描くのはアニメの背景でよくやることなので、背景美術の感覚を装画の仕事に活かせていると思います。

――くろのくろ先生から見た『謎解き京都のエフェメラル』の魅力とは?

くろのくろ:背景を描く身としてはやはり、実際の京都が舞台というところに魅力を感じます。そして登場人物が京都弁を話しているところも大好きなポイントです。私も関西出身なので身近に感じます。

 表紙で描くキャラクターの服装は、いつも泉坂先生からアイデアや資料をたくさんいただいていて、それが毎度おしゃれで素敵なんです。自分の引きだしにはない部分を刺激されて創作意欲がくすぐられるので、その点も描いていて楽しいポイントです。

 私が特に好きな話は、4巻の帯にも採用されたナラちゃんの告白のシーンです。とても真っ直ぐで可愛くて、きゅんとしました。

――これからイラストレーターを目指したい方にとっても参考になるお話だったと思います。くろのくろ先生が思うイラストレーターのお仕事像とは、ずばり何でしょうか?

くろのくろ:これは私の場合ですが、いつも「こんなの描けないよ~」と泣き言をいいながら描いています。

 絵を描く仕事は、「自分の描きたいものを描く」のではなく、アニメだと監督の、書籍だと作家の先生や編集の方の「描いて欲しいもの」を描けないといけません。駆け出しの頃はそれが分かっていなかったのですが、仕事を続けるうちに「求められるものを出せるように頑張ること」を楽しめるようになったと思います。

 今の自分の絵に満足せず、もっと上手く描けるようになりたいです。なんだかんだと悩みながらも気づけば絵に向き合い続けているような……イラストレーターは、そんな人に向いている仕事なのかなと思っています。

『神宮道西入ル 謎解き京都のエフェメラル 夏惜しむ、よすがの花』くろのくろによるカバーイラスト(著:泉坂光輝/ことのは文庫)

■作品情報
「謎解き京都のエフェメラル」シリーズ 1~5巻
著者:泉坂光輝
イラスト:くろのくろ
価格:770~803円(税込)
特設サイト:https://kotonohabunko.jp/special/ephemeral/

関連記事