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ネット怪文書の超リアル模写が怖すぎる! カクヨム発話題のホラー『ダクダデイラ』を読む
5月28日のAmazon売れ筋ランキングで17位にランクインしていたのが、餅屋䖸(もちやあり)の『ダクダデイラ』(KADOKAWA)である。Web小説サイト『カクヨム』に掲載された作品を加筆修正・改題したものだ。ちなみにこの原稿は本書の内容に多少触れているので、何も情報を入れずに読みたいという人は今すぐブラウザを閉じていただきたい。
実名サイトが並ぶ恐怖
『ダクダデイラ』は、いわゆるモキュメンタリーホラー的な作りのホラー小説である。「過去10数年にわたって作者が収集してきたネット上の怪文書を、誰かと共有できたらと思いカクヨムに投稿した」という作品であり、その立て付けの通り、ネット上の文章をそのまま転載したような文章が連作形式で連なっている。
ちょっとギョッとするのは、文章が掲載されたサイトの名称などに、実在するものがそのまま使われている点だ。弁護士ドットコムに掲載された相談から、Googleマップのクチコミ、電話帳ナビ、はてなブログ、ジモティーの短期アルバイト募集、不動産ポータルサイトのSUUMOなどなど、多少なりともネットに親しんだ人ならば一度は見たことのあるサイトが、名称もそのままに登場する。あくまで「ネット上で見つけた怪文書をまとめた本」なのだから、サイト名を改変したりすると成立しない。このポイントを日和らなかったのは、本書にとって大英断と言えるだろう。
これらさまざまなサイトには、そのサイトに応じた独特の文体や、書き込まれている内容の癖がある。『ダクダデイラ』がすごいのは、文体や内容に関してほぼ完璧にトレースできているという点だ。あくまで「ネット上の怪文書を収集してきた」のだからトレースもへったくれもないのだが、しかしそれにしても「いかにもGoogleマップの口コミっぽい文章」「いかにも高校生のSNSのアカウントっぽい文章」がきれいにコピーされているのはなかなかすごい。中には「複数の父親が自分の子供の性的な画像を交換している掲示板の文章」のような悍ましいものもあるのだが、「見たことないけど、多分そういう掲示板の文章のノリってこういう感じなんだろうな……」というリアルさがあった。
書き込み内容がリアルであるというのは、インターネットを題材にしたホラー小説にとって非常に重要なことだと思う。ネットの書き込みは、書いた人間の顔が見えず、文章だけがある。その文章の内容や行間、言葉遣いなどを見て、我々はネットの向こうにいる人間の存在感や人格を感じたり想像したりする。つまり、インターネットを題材にしたホラー小説で各種サイトの書き込み内容をリアルに作り込むことは、通常の小説における人物描写を作り込むことに等しい。そしてそこに確かな人間の存在を見るからこそ、なんらかの方法で人間社会やネットに割り込んでくる異物の怖さが引き立つ。インターネットを題材にしたホラー小説における書き込みのリアルさは、スイカにふりかけた塩のような効果を生むのである。
モキュメンタリーの枠を超える「加筆」
このようなネット描写のリアルさに支えられた本書は、一見すると独立した短いエピソード・怪文書が並べられているように見える。本当に途中までは、意味不明なものもあればオチがあるものも混じった、わかるようでわからない怪文書の連打に見えるのだ。だが、後半に行くに従ってうっすらとエピソード間のつながりが見えてきて、いくつかの怪文書に書かれた事態の裏側にいる「何か」の存在がぼんやりとわかるような作りになっている。ある程度読んでいくうちにじわじわと事態の深刻さが見えてくるこの構成も、本書の見どころだろう。そして、この「何か」の意図や全体の構図が見えてくるのが、カクヨム発表分ではなく書籍化にあたって加筆された部分である。
この加筆部分が重要だ。というのも、この部分がいわゆるモキュメンタリーホラーの枠を超えた内容なのだ。そこまでは「インターネットを題材にしたホラー」と言われて想像できる範疇に収まっているのだが、加筆部分に関しては完全にその域を乗り越えており、「何か」によるスラッシャーホラーと言えるようなレベルに達している。ネタバレになってしまうので詳細を書くのは控えるが、この部分に関しては内容的に相当どぎついものがあり、万人にオススメするのは難しいように思う。
ただ、『ダクダデイラ』はこの加筆部分によって、最近よく見る「インターネットを題材にしたモキュメンタリーホラー小説」という括りを飛び越えたのも確かである。ここについては作者も明確に差別化を狙った部分であろうし、そもそも『ダクダデイラ』はホラー小説なのだから、加筆された内容に関する狙いも内容も間違っていない。人を選ぶ内容ではあるかもしれませんが……。
ここで具体的な内容について言及できないのがもどかしいが、とにかく読んでいけば「え? こうなるの!?」と驚くはず。インターネットの壁を越え、あれよあれよといううちにとんでもないことになっていく展開は、なかなか強烈である。そろそろじわじわと暑くなって、怪談にはうってつけとなってきたこの季節、ピリッと刺激のあるホラーを読みたいという読者にはオススメの一冊だ。
■書誌情報
『ダクダデイラ』
著者:餅屋䖸
価格:1,980円
発売日:2026年4月30日
出版社:KADOKAWA