Amazonベストセラー漂流記
なぜガンプラは色褪せないのか? 5000種を俯瞰して見えた「塗装と接着からの解放」という哲学
2月12日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で60位に食い込んでいたのが、『誕生45周年記念 GUNPLA PERFECT MASTER BOOK』(小学館)である。名前の通りガンプラについて紹介したムックだが、「ガンプラとはどういう製品なのか」を俯瞰して眺められる良書である。
作品順ではなく「アイデア順」で読み解く、異色のガンプラ発達史
本書は雑誌『DIME』2025年9・10月合併号に掲載された記事も再構成しつつ、誕生から45年を迎えた現在のガンプラについてまとめたもの。ガンプラといっても色々あり、本書によればこれまでに発売されたラインナップは5000種以上。これほど膨大なシリーズをまとめて紹介するとなると「どういった切り口でまとめるか」が問題になる。で、本書の方針を引用すると「45年間培われてきた主なテクノロジーを中心に、ガンプラを企画・開発するBANDAI SPIRITSへの取材も交えながら、これまでの歩みを徹底解説」したものとなっている。
テクノロジーを中心に……というのはどういうことかは、目次を見ると一目瞭然である。本書ではガンプラ45年の歴史を、1980年のガンプラ誕生から2000年ごろまでの「第一次ガンプラブーム以降」、2002年の『機動戦士ガンダムSEED』放送から2020年ごろまでの「第二次ガンプラブーム以降」、そしてコロナ禍を経て現在に至る「第三次ガンプラブーム以降」の三つに分割。それぞれの時期に登場したガンプラに盛り込まれた新しいアイデアを年代順に列挙し、そのアイデアの内容とそれが使われたキットを紹介することで、ガンプラの発達史を俯瞰するという構成になっている。
まずこの「ガンプラに盛り込まれたアイデアを基準にしてシリーズ全体を分割し、解説する」という構成が、ガンプラの専門書としても少し珍しいように思う。ガンプラは「ガンダムのプラモデル」である以上、映像作品としてのガンダムシリーズに強く結びついており、プラモデルを年代ごとに並べて紹介する場合は映像作品の発表順序に準じたものになりがちだ。そういった切り口ではなく、80年代以降ガンプラに盛り込まれていったアイデアを軸にガンプラの歴史を紹介することで、その時々でバンダイ(現BANDAI SPIRITS)とガンプラは一体何を目指していたのかが読み取れるようになっている。
一例を挙げると、最初の「第一次ガンプラブーム期以降」には、登場した年代順に「いろプラ」「スナップフィット」「MS変形機構」「システムインジェクション」「ランナーロック&Vフレーム」「タッチゲート」といった項目が目次に並んでいる。「いろプラ」は一枚のランナー(プラモデルのパーツがくっついている枠)の中に複数の色の樹脂を流し込める多色成形機を使い、塗装をしなくてもアニメでの色分けを再現したキットのこと。同様に「スナップフィット」はパーツにつけられた出っ張りを使って、接着剤を使わずにプラモデルを組み立てられるようにした工夫を指す。こういったそれぞれの項目についての説明を読んでいくことで、この時期のバンダイは「プラモデルを作る工程から"塗装"と"接着"を取り除くことで、誰でも組み立てられるような製品を目指していたんだな」ということが読み取れるようになっている。
ガンプラが最強のプロダクトであり続ける理由とは
そういった技術・アイデアの紹介に加え、本書ではそれぞれの時期に展開されたシリーズの解説が挟まれている。これによって、1990年以降のガンプラがマニアックに高度化したキットと、ファンの裾野を広げるための安価・単純なキットとの間で激しく揺れ動きながら発達していったことも理解できる。1990年代を通して「大人になったかつてのガンプラ少年」に向けたハイレベルな製品が充実していき、その一方で90年代のテレビシリーズに登場したモビルスーツには若年層向けの工夫が搭載され、さらに『SEED』の時期にはこれまでより幅広い層に向けた製品が作られ……といった流れが、パラパラと眺めているだけで頭に入ってくるのだ。「ちょっと興味がある人に向けて、ガンプラを紹介する」という目的に、極めて忠実な作りの本である。
本書を読んで改めて気付かされるのは、バンダイが長年行ってきた「ガンプラを語る語り口」の見事さだ。というのも、バンダイが「ガンプラの技術」としてプロモーションしているもののうち、本当に完全に新しい樹脂成形技術のアイデアはほぼ存在しない。そのことは本書にもしっかり書かれており、例えば多色成形機を使った「いろプラ」に関しては「工業製品の見本市に行ったバンダイの担当者が、ドイツ製の最新鋭樹脂成形機を見て、ガンプラに流用することを思いついた」という経緯があると解説されている。多色成形機自体はバンダイの発明ではなく、色や材質の異なる複数の樹脂を同じ型に流したり、性質の違う樹脂を多数使い分けたり……といった工程は、例えば歯ブラシの柄のようなプラモデル以外の工業製品でもよく見られる。
本書からは、バンダイのすごいところはそういった他の樹脂成形品で使われているような技術をガンプラに流用するアイデアそのものであり、そしてそれをガンプラに適合する形まで磨き上げる予算や人員や努力の質と量であることが読み取れる。そしてそういったアイデアと努力はほぼ全て「道具やテクニックがなくても誰でも作れ、劇中に登場したモビルスーツの姿やギミックを再現したプラモデルを製造する」「製品ごとに異なるコンセプトを実現する」という点に集約されているのだ。
そういった水平思考的な試みの積み重ねがガンプラの歴史であり、一方で本書からは、バンダイはこれらのアイデアに対してひとつひとつ名前をつけていることもわかる。先述の「いろプラ」「スナップフィット」に始まり、「レイヤードインジェクション」「マルチリンク・ギミック」「インモールド成形」「リサーキュレーションカラー」などなど、もはや何のことやら、説明を読まないとわからない。
この「プラモデルに盛り込まれたアイデアがそれぞれネーミングされていること」こそが、ガンプラを語り、プロモーションする上で非常に重要な点なのだろう。それらのネーミングは全て「バンダイ/ガンプラの"技術"」として語られており、さながらBANDAI SPIRITS ホビー事業部の繰り出す必殺技のようである。「アイデアや製品仕様をネーミングし、ややこしい説明抜きに"技術"とラベリングし、独自の必殺技のように語る」こと。それが現在ガンプラを語る上での基本的な態度になっているのだ。そのこと自体の良し悪しはさておき、「バンダイの変態技術」のような言い回しがネット上でよく見られることなどを考えると、端的にわかりやすくてとっつきやすい語り口なのは間違いない。プロレス技の名前が並んでいるような本書の目次を見て、改めてそう思わされた。
というわけで、個々のガンプラについての情報やプラモデルの作り方はさておき、「ガンプラとはどのような歴史を持ち、時期ごとに何を考えて作られたプロダクトなのか」をコンパクトにまとめた本として、『GUNPLA PERFECT MASTER BOOK』は興味深い内容となっている。他にも最新キットの紹介や各種コラム、ホビークリエイション部ゼネラルマネージャーの安永氏によるコメントなど、読み応えのある記事も多く、「ガンプラってどういうプラモデルなの?」という疑問に充分答えた内容だ。ガンプラという複雑なプラモデルシリーズ全体を俯瞰したガイドブックとして、幅広い読者におすすめしたい。
■書誌情報
『GUNPLA PERFECT MASTER BOOK: 誕生45周年記念』
編集:DIMEブランド室
価格:2,970円
発売日:2026年1月29日
出版社:小学館