岩波文庫「在庫全点」棚で話題沸騰! コーチャンフォー若葉台店に聞く「書店 × SNS」の新たな可能性
「本気、出しました。岩波文庫『出版社在庫全点』揃えました。――その数、約2,700アイテム」
全国最大級の大型複合書店・コーチャンフォー若葉台店(東京・稲城市)がXに投稿した“岩波文庫フルライン”の棚写真が、1月下旬から大きな話題を呼んだ。白・赤・青・黄・緑の背が帯のように連なる圧巻の光景は、「探していたあの一冊が本当に見つかりそう」「この棚を見に行きたい」と読書好きの心をくすぐり、引用・拡散が広がった。
この反響を受け、同施策の担当者である千葉國政氏に、現場で起きた変化と、企画に込めた狙いを聞いた。
千葉氏がまず実感したのは、「投稿翌日からの“棚前の滞留”」だったという。
「Xの投稿がバズった翌日から、岩波文庫の棚の前にずっとお客様がいらっしゃるような状況になりました。いろんな方が写真を撮ったり、背を追ったり、探していた本を手に取ったりしていて、反響の大きさを実感しました」
数字も如実だ。通常、岩波文庫の平日売上は「1日5冊前後」だが、投稿翌日は約80冊、その翌日も70冊ほどに伸長。さらに週末には150冊、170冊と跳ね上がった。
「正直、こちらもびっくりしました。岩波文庫は『特定の本を探している方が、目的を持って手に取るもの』というイメージが強かったのですが、SNSをきっかけに、より幅広い層のお客様が“この空間そのもの”を目的として来店してくださる手応えを感じました」
千葉氏が企画を後押しされたのは、SNS上で読書文化が広がっている実感だった。背景にあるのが、ぶっくま氏をはじめとした読書系インフルエンサーらが立ち上げた「本をつなぐプロジェクト」だ。プロジェクトは、書評チーム「ツナグ図書館」などを軸に、SNSから読者・書店・出版社をつなぐ動きを掲げる。
千葉氏は、ビジネス書の棚で“明確なヒット作がないのに売上が伸びる”現象を追うなかで、ぶっくま氏ら発信者の影響力に行き当たったという。
「ビジネス書の単品が大きく当たったわけじゃなく、アイテム数が増えて売上が底上げされていた。お客様の層も、若い方や女性の方が増えている。SNSで“この人が勧めるなら間違いない”という買い方が進んでいると感じました」
その延長線上で、「ほかの書店ではなかなかできない」ことを、あえてやる意味が見えてきた。岩波文庫の“全点規模”の品揃えは、店の集客だけでなく、読書文化そのものを押し広げる装置になり得る――そう確信したという。
「書店としては在庫を抱えるリスクがあるので、今回のような施策を実施するのはハードルが高い。しかし、うちに来てもらうだけじゃなくて、業界としてこの文化が広がっていくほうが大事だと思ったんです。だからまずは、岩波文庫の“全点揃え”から発信していこうと」
そもそもコーチャンフォー若葉台店は、書籍・文具・音楽映像・カフェをワンフロアで展開する超大型複合店として、親子三世代が楽しめる空間を志向してきた。公式サイトでも、書籍100万冊規模、駐車場605台など“郊外型の巨大店”としての特徴がうたわれている。
東京進出(若葉台出店)について千葉氏は、北海道で培った「車社会の商圏モデル」を関東でも成立させられる立地だったと説明する。
「北海道は商圏が広い車社会。若葉台周辺も車の保有率が高く、同じモデルで勝負できるという会社の判断でした」
そして同店の根幹にあるのが、千葉氏が「アイテム主義」と呼ぶ考え方だ。
「SNSを見て“目的”を持って来店されるお客様が増えている。だからこそ、できる限り多くのニーズに応えられるよう、アイテムをしっかり揃える。今回の岩波文庫の施策も、その延長線上にあります」
“探していた一冊がある”という体験は、ECが強い時代ほど、リアル書店の価値として際立つ。SNSで生まれた関心を、店頭の物量で受け止める――若葉台店の持ち味が、今回の話題化で可視化された格好だ。
今後は講談社学術文庫や中公新書、ブルーバックスといったレーベル単位で支持される新書・文庫の拡充も視野にあるという。ただし、膨大な在庫を維持するにはリアル店舗としての持続可能な運営体制も重要になるため、客のニーズを慎重に見極めながら、最適なラインナップを追求していく。
「ヒット作というより“レーベルにファンが付いている”ところは強化していきたい。可能な範囲で、全点揃えもやっていければと思っています」
SNSが“読むきっかけ”を増やし、書店が“出会える場”として受け止める。その循環が生まれれば、巨大店は単なる物量の誇示ではなく、文化のインフラとして機能する。千葉氏は最後に、「発信と売り場づくりをセットで続ける」姿勢を強調した。
「発信者が増えて、読書が広がる時代になっている。大型書店として、売り場で受け止めて、また発信していく。業界全体が盛り上がる状況を作っていきたいです」
■書店情報
コーチャンフォー若葉台店
〒206-0824 東京都稲城市若葉台2丁目9番2
営業時間 9:00~21:00 年中無休
https://www.coachandfour-wakabadai.jp/