『変な地図』3週連続ランキングトップ 雨穴の小説が支持を集める理由
『変な地図』、強し。2025年11月第2週のオリコン文芸書ランキング第1位は、雨穴の「変な」シリーズ最新作である『変な地図』。これで同書は3週連続で文芸書ランキングのトップを飾ったことになる。このコーナーでも何度か書いているが、今秋は伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』(双葉社)、ダン・ブラウン『シークレット・オブ・シークレッツ』(越前敏弥訳、KADOKAWA)、和田竜『最後の一色』(小学館)と、人気作家の話題作が目白押しだった。並みいる強豪たちを抑えてランキングの首位を保ち続けているのは、やはり注目すべきことだろう。その勢いは数字面でも表れており、先日公開された記事(雨穴『変な地図』が発売3週間で50万部突破 日本全国「雨穴ニスト」が急増中)にもある通り、初版20万部に発売前重版5万部を加えた計25万部からスタートし、発売3週間で大量重版が決定。現時点で累計50万部を突破している。
雨穴の「変な」シリーズは作中に挿入されている図版や絵が物語の鍵となり、そこに隠された謎を解いていくという、いわゆる読者参加型謎解きコンテンツの要素を持つ本である。さらに第1作『変な家』(飛鳥新社)は疑似ドキュメンタリー、現在でいうところの“モキュメンタリー”の構造を持っており、昨今のホラーブームと近しい面も持ち合わせていた。
ただ、『変な地図』がこれほどまでに読者の支持を受ける理由はこれだけではないだろう。以前このコーナーでも書いたが、『変な地図』の主人公は過去のシリーズ作品にも登場した栗原文宣で、彼の家族関係が物語に大きく絡んでくる。これまで「図や絵による謎解きを楽しむ」という趣向にどうしても目が行きがちなシリーズだったが、『変な地図』ではキャラクターの背景を書き込み読者の興味を引くという、一般的な小説シリーズのメソッドを取り入れている。
また、シリーズでお馴染みの絵や図版に関しても、状況や登場人物の説明をスライド資料のような図で表す(例:本文p114、p196)など、謎解きに直接関わりそうにない部分にも多用し、読者がより視覚的に作品を楽しめるよう、力を入れているようだ。
ここで思い出すのは先日「リアルサウンド」に掲載された知念実希人とホラー作家・梨の対談記事(知念実希人 × 梨が語る、モキュメンタリーホラーの可能性 小説の“新たなフォーマット”で広がる世界)にある知念の言葉だ。知念はいわゆる図やイラストを挿入した『スワイプ厳禁』と『閲覧厳禁』について「あまり小説に親しんだことが無い人にこそ楽しんでもらえるような本を目指して作りました」「ふだん小説に読み慣れている人ならば地の文を読んで情景を思い浮かべるような読書は出来るかもしれない。でも、小説をほとんど読んだことがない人には、そういう読み方はかなりハードルが高いと思うんですよね」と語ったうえで、二作について「イラストとハイライトや太字などを入れた最低限のテキストを追うだけでも楽しめるようにした」と述べている。
知念の言葉と合わせて考えると、視覚的に楽しむことへ力点を置いた『変な地図』は、ふだんは文芸書を読まない層、もっと言うならば活字を苦手と感じる層も取り込んでいるのではないだろうか。こうした読者の広がりが、新たな読書体験や創作の可能性をさらに押し進めていくだろう。
■書誌情報
『変な地図』
著者:雨穴
価格:1,760円
発売日:2025年10月31日
出版社:双葉社