Netflixドラマ『地獄に堕ちるわよ』は細木数子の暗黒面をどう描く? 問題作『魔女の履歴書』に記された衝撃的な内容

 先日、Netflixは占い師として知られる細木数子を題材としたドラマ『地獄に堕ちるわよ』を、2026年に配信することを発表した。毀誉褒貶の激しい細木をダークヒーロー的に描いたドラマになると見られるが、そんな細木の暗黒面を詳らかに書き、細木本人から訴訟を起こされた(のちに細木側が実質的に訴訟を取り下げる形で和解)書籍がある。それが溝口敦の『細木数子 魔女の履歴書』だ。ドラマ化を前に、一読をおすすめしたい一冊である。

 細木数子がレギュラー出演していたテレビ番組からすべて降板したのが、2008年のことである。降板から17年が経過し、細木本人も死去している2025年現在、テレビに出まくっていた彼女の姿を記憶しているのは一定年齢以上の人々だろう。やたらと態度が大きく、眼光鋭く共演者や一般人を罵り倒し、かと思えば「先祖の供養をしないと地獄に堕ちる」やら「女は男をたてるもの」といった放送当時でもきな臭く感じた説教をする……。自分も含め、「一体、この人はなんなんだ……?」と疑問に思いながら見ていた人も多いのではないだろうか。

 『魔女の履歴書』は、細木人気の絶頂期だった2006年から『週刊現代』で連載されていた記事をまとめたものだ。著者はヤクザや新興宗教、アウトローに関連する取材・執筆で知られる大ベテランのジャーナリスト、溝口敦。細木から訴訟を起こされている点でわかる通り、本書は細木の来歴とその占いや商法に対して舌鋒鋭く批判を加えている。

 『魔女の履歴書』に書かれている細木の来歴は凄まじい。本書によれば、細木は民政党院外団の壮士、いわゆる羽織ゴロだった細木之伴と愛人みつの間に生まれた。妻妾同居の家で幼少期を過ごし、10代から実母みつが営む渋谷・百軒店の「娘茶屋」で働き始める。「娘茶屋」は早い話が青線、つまり公認の売春街以外で売春を行っている店である。そこで10代のうちから売春あっせんのような仕事を始め、さらにホステスとして働いたり店の常連客からの支援を受けたりしつつ喫茶店を開業。それを皮切りに事業を拡大し、その過程でヤクザとの深い関わりを持つに至る。

 さらに溝口は、細木が「占いについての体系的な勉強や修行を一切していない」という点を指摘。細木の六星占術は人から借りた占いに関する資料を剽窃して作られたものであり、さらに自らの占いに関するバックボーンをでっちあげるため、東洋思想研究家で歴代首相の指南役も務めた安岡正篤に取り入っていく過程を詳細に書く。さらに歌手・島倉千代子の興行権を得て多額のギャラを懐に入れていたことなど、本書はテレビでは表沙汰にならなかった細木の行動を詳らかにしていく。

 正直なところ、細木の半生を間近で見てきたわけでもない自分には、『魔女の履歴書』の内容が完全に正確かどうかはわからない。ただ、細木は本書の版元である講談社を相手にした裁判を、2年の係争ののちに取り下げているのは確かである。『魔女の履歴書』文庫版冒頭に書かれているように、この事実は本書の内容に対して一定の信憑性を持たせている。

 その上で一読して思ったのが、尼崎で派生した連続殺人・死体遺棄事件の犯人である角田美代子と、細木数子との共通点についてである。尼崎事件について書かれたノンフィクションである小野一光の『家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』によれば、角田もまた10代のころから売春のあっせんに関わっていたという。そして水商売に移ったのち、養子縁組を使ってごく普通の家族を次々に乗っ取り、金蔓にしては殺していくという、凄惨な事件を起こした。

 もちろん細木数子は人を殺したわけではない。しかし10代の頃から売春の現場に接近し、相手を乗り換えながら次々と他者を搾取し続けたという点には角田と妙に似通ったところがある。年齢的には細木のほうが10歳ほど年上だが、2人が生きてきた時代もそれほど離れていない。ヤクザと関係を持ち、島倉千代子のギャラを奪い、さらに占いの手法を他人から剽窃して「アンタ死ぬわよ」「地獄に堕ちるわよ」を決まり文句にマスコミを通じて全国に対して影響を及ぼした細木と、地元尼崎を根拠地に次々と他の家族に寄生しては暴力的に搾取を続けた角田は、規模ややり方が異なっただけで似たところのある存在だったのかもしれない。

 『魔女の履歴書』での溝口の筆致はめっぽう鋭く、執筆時点で高齢の女性だった細木を揶揄するような記述も多い。しかし繰り返しになるが、裁判での顛末を考えれば、この本の内容は相当程度事実と思っていいはず。細木数子という存在について今一度知りたいならば、一読をおすすめしたい。

 監督らのコメントを見る限り、Netflixの『地獄に堕ちるわよ』は細木数子の自伝である『女の履歴書』をベースにしているようだ。この本はいわば細木側の「大本営発表」に近いものであり、溝口の指摘によれば内容に嘘や誇張が多いとされる。『地獄に堕ちるわよ』は『極悪女王』や『地面師たち』のような実話をベースにしたピカレスク系の作品になるのだろうが、果たして重く暗い細木の実態にどこまで迫る気なのだろうか。超有名占い師のダークすぎる一面に迫った『魔女の履歴書』で、予習しておくのも一興かもしれない。

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