【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー
キンプリ髙橋海人らの熱演で話題『DOPE』から氷室冴子の代表作『銀の海 金の大地』まで、注目のライト文芸新刊
『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回は髙橋海人と中村倫也のW主演ドラマも放送中のダークサスペンスに、佐藤健主演のドラマが始まった青春バンド小説の傑作など、5タイトルをセレクト。
木崎ちあき『DOPE 麻薬取締部特捜課』(角川文庫)
7月からKing & Princeの髙橋海人と中村倫也のW主演でテレビドラマがスタートした注目作の『DOPE 麻薬取締部特捜課』。治安が急激に悪化した近未来日本を舞台に、ドープという新種のドラッグに関する事件を追う特捜課を描くサスペンス小説だ。
ドープという新種のドラッグには一時的に運動能力や精神力を高める作用があり、超人的な力を手に入れた者による犯罪が多発している。麻薬取締部特捜課は、警察の手に負えないドープ絡みの事件や過激な麻薬組織犯罪を捜査する部署で、チームもそれぞれ特殊な能力の持ち主で構成されていた。麻薬取締部特捜課に異動した新人の才木優人は強い正義感をもつ真面目な男で、未来予知のような珍しい能力をもつ。だが教育係となった陣内鉄平は勤務態度が不真面目な先輩で、ドープを使う者は殺人者予備軍だとためらいもなく射殺してみせるのだった。第一印象は最悪でそりが合わない二人は、麻薬に関係する事件を追うなかで、それぞれが抱える事情を知っていく。やがてドープに関する犯罪は、東京を拠点にする多国籍マフィアの白鴉や日本最大の暴力団組織・仁龍会も巻き込み、思いがけない展開をみせることになるのだった。
荒廃した日本の姿が強いインパクトを残す本作は、個性豊かなキャラクターにテンポのよい展開、緊迫感あふれるラストと、キャラクター小説の魅力が濃縮されている。それぞれの信念をもつ才木と陣内を中心に人間が抱える悲しみや憎しみを描く、ダークな魅力があふれた作品だ。
氷室冴子『銀の海 金の大地6』(集英社オレンジ文庫)
氷室冴子がかつて「アニメージュ」に連載した青春グラフィティ『海がきこえる』。この夏、スタジオジブリによるアニメーション版『海がきこえる』が全国の映画館でリバイバル上映されるなど、氷室作品は再び大きな注目を集めている。
その『海がきこえる』と並ぶ氷室の90年代の代表作が、古代転生ファンタジー『銀の海 金の大地』だ。物語の舞台は4世紀の古代日本。淡海の息長族の邑で奴婢のように暮らす少女・真秀は、大和に古くから住む一族・佐保の王子佐保彦と運命の出会いを果たす。「滅びの子」として佐保一族から憎まれる真秀は、次々と襲いかかる試練の中で血まみれになりながら生き延び、過酷な運命と宿命の恋に向き合っていくのである。
第6巻は、目的もわからぬまま攫われた真秀の脱出劇を中心に、野心と欲が絡む豪族同士の駆け引きや、囚われた真秀を助けようとする少女・小流由との極限状態の友情、サブキャラクターである歌凝姫と須久泥王の痛ましい恋の顛末、暗殺などを手掛ける波美の一族の長・波美王と真秀の心震える対話など、数々の名エピソードが収録されている。シリーズ全11巻の中で個人的に最も愛する巻であり、佐保彦と真秀の関係においても転機となる一冊だ。愛と憎しみが交差する濃厚な人間ドラマをぜひこの機会に堪能してほしい。
深沢仁『英国幻視の少年たちI』(東京創元社)
ポプラ文庫ピュアフルで刊行された人気シリーズが単行本でよみがえる。第1弾には「ファンタズニック」と「ミッドサマー・イヴ」の2エピソードに加えて、書き下ろしを含む短編5本の計7本を収録。物語世界に浸る喜びを味わえる豪華愛蔵版だ。
大学生の皆川海はとある理由で逃げるように日本を離れ、イギリスで暮らす叔母鞠子の家に下宿をしながらウィッツバリー大学に通っている。ある日、ランス・ファーロングという名の赤毛の青年が家に現れた。彼は妖精や精霊の保護や監視を行う英国特別幻想取締報告局の一員で、鞠子は自宅に現れた妖精を追い出そうと呼びつけたのである。霊的なものを視覚的に認識できる「第二の目」をもつ海と、貧血体質でいつも具合が悪そうなランス。幻想的生命体を見る能力をもつ孤独な青年二人は、さまざまな事件を通じて絆を深めていくのだが――。
これまでのランスには人間の友達がおらず、人間と妖精の狭間に立つ危うさを抱えて生きてきた。だが海はランスを放っておけず、彼を人間界に引き留めようと奔走する。おとぎの国・イギリスを舞台に、幻想的生命体と人間の関わりを描く本作は正統派の西洋ファンタジーであり、バディ好きにもたまらない展開が楽しめる。イギリスへの旅情を誘われるリアリティあふれる描写と、ランスの秘密や妖精国にまつわる切なくもファンタジックな冒険譚である。