ネット疲れの処方箋に? 話題の哲学書『スマホ時代の哲学』が支持される3つの理由

 新書コーナーで目立つ存在となっている谷川嘉浩『スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー携書)。18,000字以上を加えた増補改訂版は発売2週間で2万部を突破し、全国の書店でベストセラーとなった。

 その背景には、現代社会の不安や暮らしの「モヤつき」を解消するヒントとして、哲学が再評価されているという事情がある。いま『スマホ時代の哲学』が支持される理由はなんなのか。3点にしぼって考えてみよう。

 ひとつ目は、常時接続の疲れを癒す処方箋として受容されていることだ。スマホがもたらす「常時接続」時代では、ノルマ的に複数のチャットやSNSを追い、簡単な刺激で自己肯定感を得る一方で、心はいつの間にか空虚になりがちだ。そんな状況に対し、本書では「孤独」や「内省」が回復の鍵になると説く。

 谷川は、ニーチェから村上春樹まで多彩な文化文脈を交え、スマホ社会に潜む「心の疲れ」を丁寧に言語化している。

 ふたつ目に、他者の頭を借りて考える力を鍛えられるところだ。ネットの断片的情報に頼ることが多くなり、自分でじっくり考える力が抜け落ちつつある現代人。しかし哲学は、2500年にわたり積み上げられたヒットコンテンツであり、対話の蓄積だ。

 「他人の頭を借りる」ことで思考の幅を広げる練習になる。本書はそんな哲学の価値を、実用的で親しみやすい言葉で伝えてくれる。

 さいごの3つ目は、知的好奇心をくすぐる構成だ。「ゾンビ映画で死なない生き方」「スマホが可能にする、やわらかな昏睡」といった章立てはキャッチーで、思わず手に取ってみたくなる。また、初心者でも読みやすい解説付きで、哲学入門書としても高評価。知識ゼロ層からリピーター層まで幅広い読者の支持を受けている。

 また、例として引用されるのは、哲学者ばかりではない。『ドライブ・マイ・カー』、『燃えよドラゴン』、『新世紀エヴァンゲリオン』といったエンタメ作品も登場する。難しい話題を理解しやすくしてくれる工夫が多い。

 「哲学って難しい」そんな考え方は一旦わきに置こう。「小難しい文字ばかりでわからない」と避けられがちな哲学だが、『スマホ時代の哲学』は現代の生活とつながるリアルな問いを、読者になじみ深いカルチャーを題材にしながら真摯に扱っている。「あ、これ私のことかも」と思うような瞬間が随所にあるため、「自分ごと感」もある。

 スマホ依存や他者との比較に疲れた人々にとって、『スマホ時代の哲学』は哲学の道具箱だ。本書を手に取ることで、「つながっているけれど、自分は何者にもなっていない」そんな人が、「自分の頭で考える」一歩を踏み出せるかもしれない。

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