ブッダの言葉、なぜZ世代に刺さる? 自己肯定感や人間関係に悩む世代にヒント
韓国で15万部を突破し、とくに若者を中心にベストセラーとなっている日本の書籍『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。なぜいま若者の間でブッダの言葉が支持されているのだろう。
そもそも本書が韓国でヒットしたきっかけは、韓国の女性アイドルグループ「IVE」のメンバー、チャン・ウォニョンの「仕事をしてつらいときにブッダの言葉を読むと、慰めになるし助けになる」という発言だ。彼女がメディアで紹介するや、一躍ベストセラーになった。
若い世代のロールモデルが紹介したことで人気に火がつき、受験戦争や格差に苦しむ韓国の若者たちに支持されるようになった。そして、この“仏教ブーム”は日本にも波及しつつあり、本書を手に取る若者が増えている。
なぜ2500年前の思想が、日本のZ世代の心に刺さるのか。その理由のひとつは、現代社会における「自己」のあり方の変化だ。SNSで常に誰かと比較され、自分らしさを模索する若者は「そもそも“自分”って何?」という根本的な問いに直面する。そんな彼らに「自分に執着するから苦しみが生まれる」というブッダの教えは、新鮮かつ現実的なヒントとして響くのだ。
東大卒で無職のしんめいPは、著書『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』(サンクチュアリ出版)で、「東洋哲学は“自分とは何か”を解体する思考を持つ」と指摘している。近代西洋哲学が「自我の確立」を説いたのに対し、東洋思想は「自我をほどく」方向に向かう。このアプローチが、競争や承認欲求で疲弊する現代の若者にとって救いになっている。
特に「無常観」や「縁起」といった仏教的価値観は、「変わり続けることが自然であり、変化を恐れなくていい」というポジティブな視点を与える。先行きの見えない時代に、不安を抱えるZ世代に「今この瞬間を大切にする」マインドフルネス的考え方が支持されているともいえる。
さらに、スマホひとつで簡単に情報が手に入る現代では、短いフレーズで核心を突く“超訳”スタイルが親和性を高めている。SNSでも「心が軽くなる」「気持ちが落ち着く」と投稿され、共感が共感を呼ぶ形で人気が拡大しているようだ。
かつて仏教は「葬式仏教」と揶揄され、日本では年配層のものと見られがちだった。しかし今や自己啓発やメンタルケアの文脈で若者に受け入れられている。ブッダの言葉は「時代遅れの教え」どころか、時代の不安を癒す最新の知恵として再評価されているのかもしれない。