”日本SFの父”海野十三が拓いた「空想科学小説」というジャンル 『地球盗難』を読み解く
結局あのロケットの正体はなんだったのか、青年たちはなぜ怪鳥艇に乗っているのか、わからないまま物語は進んでいき最後まで明確な答えを持たない。それでもその未完の謎こそが、本作の最大の魅力だとも言える。想像の余地を残し、読後のモヤモヤ感を与えることが、読者の想像力を掻き立てている。
現在、世田谷文学館で開催中の「海野十三と日本SF」展では、海野の軌跡を辿る小説原稿や関連資料のほか、手塚治虫、星新一、小松左京、筒井康隆、豊田有恒らSF第一世代の作品も紹介している。
また、海野と同じく世田谷に住んだ横溝正史や、海野の住まいから徒歩15分ほどのところに住んでいた小栗虫太郎らとの交友を紹介している。海野と横溝正史の手紙などの資料が展示され、作家としての海野だけでなく、人間としての海野の姿にも触れることができる貴重な機会だ。
ちなみに、本書の巻末にも小栗虫太郎との交友を伝える資料が収録されており、互いの深い交友を窺い知ることができる。
「地球盗難」を書いた当日、海野は近い将来に科学小説時代が到来し、卓越した科学小説作家の作品を読み耽る日が来ることを待ち望んでいると述べている。しかし、科学的なリアリティを追求したハードSFが当時よりも増えた現代であっても、海野の科学小説が時代遅れになることはない。技術が進んだ今なお色褪せない、魅力が詰まった作品世界を改めて堪能してもらいたい。