トランプと決裂したイーロン・マスクに残された“3つの道”とは? 注目集まるロボタクシーの実証実験
ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。
第31回は、トランプと決裂したイーロン・マスクに残された“3つの道”について。
イーロン・マスクに残された3つの道
先日、五反田でウェイモ(Waymo)の車両を見かけた。いわゆるロボタクシーの実証実験だ。サンフランシスコではすでに無人走行が始まっているが、東京のように道が入り組んだ都市で本当に運用できるのか。ちなみに僕は懐疑的な立場だ。
とはいえ、五反田の道にチャレンジするというのは見ものである。駅周辺は狭く、一方通行も多い。酔っ払いも多く、僕自身、あまり車で行きたい街ではない。だからこそ、ウェイモの「本気度」が垣間見える。ちなみに、ベース車両であるジャガーI-PACEの車幅は1895mm。日本の標準的なタクシーであるジャパンタクシーよりも、およそ20センチ広い。こんな車を東京の市街地で走らせるのだから、難易度は高い。
ここからさらにシステム精度が2〜3段階進化すれば、次は歌舞伎町の大ガード前にも挑戦してほしい。あのカオスな場所で客を拾えるようになったら、さすがに本物の「タクシー」と認めざるをえない。
さて、話は変わって、トランプとイーロン・マスクの決裂について。テスラは今月中にも、テキサス州オースティンでロボタクシーのサービスを開始する予定だが、その裏では米運輸省との対立が続いている。
運輸省は、これまでに発生した歩行者死亡事故などの詳細データの提出をテスラに求めている。しかし、テスラ側は「まず走らせること」を優先し、安全性の証明を後回しにしている。この状態でのサービス開始は、さすがに強引すぎるという声があがるのも無理はない。
現状、テスラはEVメーカーとしても行き詰まり感が漂っている。生産体制は中国依存が強く、トランプ政権下では関税の引き上げやEV補助金の削減も予告されている。いわばダブルパンチだ。ではなぜマスクはトランプと手を組もうとしたのか。矛盾だらけのコンビではあるが、マスクなりの目算があったのだろう。ただ、それは今に至るまでよくわからないままだ。
マスクの経営スタイルは、ロケットでもEVでも一貫している。無茶な納期を設定し、生産チームを極限まで追い込む。本人もまた、自らを常に追い詰めていく。人は極限状態でこそ本気を出す──それが彼の思想だ。そして「問題が起きたらあとから修正する」のも、そのスタイルの一部である。
スペースXでも、初期のロケットはよく失敗していた。コストを抑えるために機材も簡素だったが、何度もクラッシュを繰り返しながらデータを集め、やがて成功にこぎつけた。一度“成功フェーズ”に入れば、圧倒的なコスト競争力で市場を席巻する。その手法を、ロボタクシーでも再現しようとしている。
たしかに、現時点ではGoogleのウェイモが先行している。ただし1台あたりのコストは高い。テスラは後発だが、まずはオースティンで10台のテスト運用を開始し、短期間で数千台規模へと拡大。低コストで市場を一気に取りにいく構えだ。ただし、「問題が起きたらあとから修正する」というやり方が、この分野でも許容されるのか。そこに運輸省は強く警戒している。
そんななか、YouTubeでテスラの事故動画を見ていたら、アメリカで“反テスラ運動”を展開するテック系ビリオネアの存在を知った。彼の名はダン・オダウド(Dan O'Dowd)。ソフトウェア業界の重鎮で、自腹を切ってテスラの自動運転ソフトの危険性を検証。その様子を自ら撮影し、動画として公開している。
ここ数年はスーパーボウル中継でも「反テスラ」のCMを流し続けており、その執念はもはや狂気の域に達している。ただし、彼のX(旧Twitter)のフォロワー数は3万人ほど。インフルエンサーと呼ぶにはやや心許ない。言っていることが正しかったとしても、世間的には“ちょっと変わった人”どころか、ほぼ無視に近いのかもしれない。ただちょっと注目したいおもしろい人物だ。
さて、トランプと決裂したイーロンには、今後3つの道がある。