【漫画】猫が竜を育てるハートウォーミングな物語に脚光! 『猫と竜』誕生の背景は?
印象に残っているエピソード
――ご自身でも印象に残っているエピソードはありますか。
アマラ:「大活劇! ヤジュウロウ爪法帖」(宝島社文庫『猫と竜 竜のお見合いと空飛ぶ猫』所収)ですね。劇中劇で猫たちが舞台を見るような話です。自分としても、自由気ままに遊ばせてもらったエピソードとして印象に残っています。もともと時代小説が大好きで、月に5~6冊は読むんです。それで、猫で時代小説を書けないかと担当に相談して、良いよと言われたので書きました。最初はドキドキだったんですが、受けは悪くなかったのでありがたかったです。
――時代小説がお好きとは意外です。どなたの作品を読んでいるのですか。
アマラ:風野真知雄先生ですね。『わるじい秘剣帖』シリーズや、NHKのドラマになった『妻は、くノ一』シリーズが好きです。ファンタジーというと『指輪物語』のような感じの重厚な感じのものになりがちですが、会話のところは軽くして日常会話のようにすっと入っていけるものにできればと思って書いています。風野先生の作品は軽妙な言葉のやりとりがあって、そこをすごく参考にしています。
――「猫と竜」のシリーズは今後どのように進んでいくのでしょうか。四六判の書籍で刊行していたものを佐々木先生が漫画にして、それから単行本が文庫になる流れになっていますが。
アマラ:今は小説よりも漫画が先行する形になっています。原作という形で短編のようなものを書いて、それを元に佐々木先生が漫画にしているので、そこから単行本のために修正も加えながら本編の小説を書いていく形で進んでいます。私は小説を書くときに、あまりキャラクターの造形を考えないで書いているところがあるんです。ハイブチという猫も灰色でブチだろうとしか考えていないですし、王子が連れているクロバネも黒くて目のところに傷があるという設定だけ。それを大熊先生がイラストにして、佐々木先生が漫画にしてくれて、初めて「こういうキャラクターだったんだ」と思うこともあります。イラストや漫画から刺激を受けて、小説にフィードバックされることもありますね。
――シリーズはまだまだ続いて、猫もどんどん増えていく感じでしょうか。
アマラ:エピソードを増やそうと思えばいくらでも増やせますし、ピリオドを打とうと思えばどこでも打てますが、読者の皆さんから求めていただけるのなら書いていこうと思っています。そこでは私のアイデアだけでなく、担当者や読者からアイデアを戴くこともあります。「終の寝床」(宝島社文庫『猫と竜 猫の英雄と魔法学校』所収)は担当者と新宿の喫茶店でプリンパフェを食べながら打ち合わせをしていたときに、「猫の最期を書きましょう」と言われたんです。「エッ!?」と思いましたが、要するに猫が赤ちゃんの時の話だったり、猫がどう生きるかといった話を書いてきたので、そろそろ猫がどのように生を終えるのかを書いてみるのも、ひとつの物語として良いのではというアイデアでした。
――人間たちとふれあいながらワチャワチャしている猫の愛らしさを感じられるシリーズの中に、猫には猫なりの生き方があるのだと感じられて、シンミリすると同時に物語の奥行きが増したエピソードでした。
アマラ先生のデビュー秘話
ーーアマラ先生のことについて伺いたいのですが、ずっと小説を書いてこられたのでしょうか。
アマラ:古い話になりますが、もともと私は漫画家になりたかったんです。自分で物語を考えて、それを見せて褒められたいという思いがあったのですが、そうした物語を出力する方法というものを、小学生当時の私は漫画しか知りませんでした。ただ、漫画を描くには当然、絵を描く必要があって、絵心が皆無な私には無理な話でした。5年ぐらい漫画を描こうとしてこれはダメだ、何か他の方法はないだろうかと探していた時に出会ったのが、阿智太郎先生の『僕の血を吸わないで』(電撃文庫)でした。
――ライトノベルですね。
アマラ:神坂一先生の『スレイヤーズ!』や水野良先生の『ロードス島戦記』もアニメでやっていたので知ってはいたんですが、文章として初めて読んだのが『僕の血を吸わないで』で、こういう文体があるんだと衝撃を受けました。漫画はダメだけど文章なら日本語の教科書が読めるのだからなんとかなると。すぐにはなんともならなかったんですけど、それで書き始めてコンテストに応募して一次選考にも残らず、鳴かず飛ばずで箸にも棒にもかからないと諦めていたところに「小説家になろう」というサイトがあるのを知って、投稿を始めました。そこでそこそこ反応をもらえて、書いているうちに知識も蓄積されて読みやすい文章を意識するようになっていって、『神様は異世界にお引っ越ししました』が第2回エリュシオンノベルコンテスト(なろうコン)を受賞して、宝島社さんに拾っていただけました。
――諦めないで書き続けたことがデビューにつながった訳ですね。
アマラ:小説を書き始めてからは20年くらい、「小説家になろう」で書き始めてからは7~8年くらいかかっています。もしも現在、小説を書いてデビューを目指している人に何かを言うとしたら、辞めるなら早く辞めた方が良い、辞めて他のことをした方が良いということです。当時の仲間には書くのを辞めて会社で出世した人、医者になった人もいますから。私の場合はこれしかなかった、しがみつくしかなかったんです。漫才コンビに錦鯉さんっていますよね。ボケの長谷川雅紀さんが、どうして続けてこられたのですかと聞かれて、「バカだったからじゃないですか」みたいなことをおっしゃっていて、「そうだ、その通りだ」と思いながら涙ぐみました。
――最後に、これから新しく『猫と竜』シリーズを手に取る人に、お勧めポイントがあれば教えて下さい。
アマラ:短篇集で、どの話も予備知識がそれほどなくても楽しめると思います。小説は単行本にも文庫にも巻数のナンバーを振ってないんです。最初にサブタイトルのない『竜と猫』を読んだ後は、どこから読んでいただいても大丈夫です。自分で言うのもなんですが、小説は私が発信した段階で完成するものではなくて、手に取った方が読み終わった時に完成するものなんです。先入観を抱かず、頭を空っぽにして読んで、そこで感じたことがすべてなのかなと思います。なんとなく読んでいただければ幸いです。
――アニメへの期待や感じていることがあれば教えて下さい。
アマラ:原作をすごく大切にして、丁寧に作っていただいています。監督の方が原作を単行本も文庫もコミカライズも全部読んでくださっていて、私が完全に忘れているような設定もしっかりと拾ってくれているんです。私の方から「アニメ化の都合で猫のキャラクターを人間にしても大丈夫です」といっても、そうはいきませんとたしなめられたくらい(笑)。ここまで気を遣っていただいているなら、私としてはもう楽しみしかありません。私自身が映像を頭に描きながら書いているようなところがありますが、それがアニメになるにしても漫画になるにしても1枚のイラストをつけていただくとしても、文章とは別の世界が広がるんです。観る人によってはご自身の思いから外れていると感じることがあるかもしれませんが、それもまたひとつの世界として楽しんでいただければ嬉しいです。
■書誌情報
『猫と竜』(文庫版)
著者:アマラ
発売日:2017年4月6日
価格:715円(税込)
『猫と竜(11)』(漫画版)
原作:アマラ
漫画:佐々木泉
キャラクター原案:大熊まい
発売日:2025年4月3日
価格:800円(税込)